おひとりさま希望の伯爵令嬢、国王の命により不本意にも犬猿の仲の騎士と仲良くさせられています!
第34話 マリネットが去った ※ラルフside
祖母のリーリエを巡った私怨で対立した我がヴェルナー家と、ザカリー家。
そんな犬猿の仲のヴェルナー家の俺と、ザカリー家の令嬢であるマリネット・ザカリーが、お互いに国王陛下に仕える同僚として出会った。
今思えば、初めてマリネットを見かけた時から彼女に惹かれていたのに、どうして初めから素直に気持ちを伝えられなかったのだろう。
シャドラン卿に拒まれて男性恐怖症になってしまったという過去を持つ彼女にとって、男性から馴れ馴れしくされるのは恐怖でしかないはずだ。そんな変な気を回して、当初から彼女に冷たく接してしまった。今更、後悔している。
彼女から返されたハンカチを握りしめ、俺は王都のある場所にやってきた。
ザカリー伯爵のタウンハウスの門の前。
一応ラルフ・ヴェルナーの名前で先触れは出したものの、タウンハウス周辺には人っ子一人いない。
静まり返ったこの場所を見て、俺が歓迎されていないことを察した。
ドアベルを引く。
……もう一度、引く。
しばらくして使用人が一人、門まで出て来た。
「ラルフ・ヴェルナー様でいらっしゃいますでしょうか」
「そうです。先触れは出しましたが、突然の訪問申し訳ありません」
「中にお通しするようにとのことですので、どうぞ……」
声の震えている若い使用人に付いて、タウンハウスの中に入った。ザカリー伯爵と言い使用人と言い、なぜヴェルナー家の者をそこまで怖がるのだろう。
◇
そして予想どおり、怯え切った目をしたザカリー伯爵がやって来た。冬でもあるまいし、そんなに震えなくてもよいのでは?
「ヴェッ……ヴェルナァッのご令息が、一体どのような御用で……?」
いつ会っても、随分と気の弱い父親だ。いやいや、待てよ。俺が伯爵との初対面の時に酷い態度を取ったんだった。俺のせいか。
「ザカリー伯爵、突然押しかけて申し訳ありません」
「いえ、いいえっ! ちなみにマリネットなら今、ここにはおりませんぞ!」
「は?」
ビクビクしているザカリー伯爵を見ていると、よくもこんな人から芯の強いマリネットが生まれたものだと不思議になってくる。
「マリネット嬢にお伝えしたいことがあって参ったのです。今、彼女はどちらにいらっしゃるのですか?」
「……ヴェルナーの者に、そそそんなことを教える筋合いはない! です」
「いいえ、今はもうヴェルナーとかザカリーとか、家同士のことは置いておきましょう。マリネットの居場所を教えてください」
「マリネットのことを呼び捨てにしましたな……!」
ダメだ、怒らせてしまってはいけない。
今の俺は、この人にお願いがあって来たのだから。
「申し訳ありません。大変失礼しました。私は今日、ヴェルナー家を代表してきたわけではありません。私が個人的にお願いがあって参りました。伯爵とマリネット嬢にお話したいことがあった。それだけなのです」
「……マリネットは、領地に戻りました」
「りょ、領地へ……? なぜですか?」
ガックリと肩から力を落としたザカリー伯爵は、恨めしそうな顔でこちらを見る。俺の問いには答えたくないのだろう。
俺がザカリー家で歓迎されないことは分かっていた。でも、そんなことはどうでもいい。本人に言っても無駄ならば、周りから固めようと思って、俺は今日ここにやってきたのだ。
「それで、結局こちらには何をしにいらっしゃったので?」
「それは……」
本来ならばマリネットの前で直接言いたかったが仕方がない。俺は姿勢を正して座り直し、頭を下げてハッキリと言った。
「ザカリー伯爵。マリネット・ザカリー嬢との、婚約を申し込みに参りました!」
そんな犬猿の仲のヴェルナー家の俺と、ザカリー家の令嬢であるマリネット・ザカリーが、お互いに国王陛下に仕える同僚として出会った。
今思えば、初めてマリネットを見かけた時から彼女に惹かれていたのに、どうして初めから素直に気持ちを伝えられなかったのだろう。
シャドラン卿に拒まれて男性恐怖症になってしまったという過去を持つ彼女にとって、男性から馴れ馴れしくされるのは恐怖でしかないはずだ。そんな変な気を回して、当初から彼女に冷たく接してしまった。今更、後悔している。
彼女から返されたハンカチを握りしめ、俺は王都のある場所にやってきた。
ザカリー伯爵のタウンハウスの門の前。
一応ラルフ・ヴェルナーの名前で先触れは出したものの、タウンハウス周辺には人っ子一人いない。
静まり返ったこの場所を見て、俺が歓迎されていないことを察した。
ドアベルを引く。
……もう一度、引く。
しばらくして使用人が一人、門まで出て来た。
「ラルフ・ヴェルナー様でいらっしゃいますでしょうか」
「そうです。先触れは出しましたが、突然の訪問申し訳ありません」
「中にお通しするようにとのことですので、どうぞ……」
声の震えている若い使用人に付いて、タウンハウスの中に入った。ザカリー伯爵と言い使用人と言い、なぜヴェルナー家の者をそこまで怖がるのだろう。
◇
そして予想どおり、怯え切った目をしたザカリー伯爵がやって来た。冬でもあるまいし、そんなに震えなくてもよいのでは?
「ヴェッ……ヴェルナァッのご令息が、一体どのような御用で……?」
いつ会っても、随分と気の弱い父親だ。いやいや、待てよ。俺が伯爵との初対面の時に酷い態度を取ったんだった。俺のせいか。
「ザカリー伯爵、突然押しかけて申し訳ありません」
「いえ、いいえっ! ちなみにマリネットなら今、ここにはおりませんぞ!」
「は?」
ビクビクしているザカリー伯爵を見ていると、よくもこんな人から芯の強いマリネットが生まれたものだと不思議になってくる。
「マリネット嬢にお伝えしたいことがあって参ったのです。今、彼女はどちらにいらっしゃるのですか?」
「……ヴェルナーの者に、そそそんなことを教える筋合いはない! です」
「いいえ、今はもうヴェルナーとかザカリーとか、家同士のことは置いておきましょう。マリネットの居場所を教えてください」
「マリネットのことを呼び捨てにしましたな……!」
ダメだ、怒らせてしまってはいけない。
今の俺は、この人にお願いがあって来たのだから。
「申し訳ありません。大変失礼しました。私は今日、ヴェルナー家を代表してきたわけではありません。私が個人的にお願いがあって参りました。伯爵とマリネット嬢にお話したいことがあった。それだけなのです」
「……マリネットは、領地に戻りました」
「りょ、領地へ……? なぜですか?」
ガックリと肩から力を落としたザカリー伯爵は、恨めしそうな顔でこちらを見る。俺の問いには答えたくないのだろう。
俺がザカリー家で歓迎されないことは分かっていた。でも、そんなことはどうでもいい。本人に言っても無駄ならば、周りから固めようと思って、俺は今日ここにやってきたのだ。
「それで、結局こちらには何をしにいらっしゃったので?」
「それは……」
本来ならばマリネットの前で直接言いたかったが仕方がない。俺は姿勢を正して座り直し、頭を下げてハッキリと言った。
「ザカリー伯爵。マリネット・ザカリー嬢との、婚約を申し込みに参りました!」