【コミカライズ】おひとりさま希望の伯爵令嬢、国王の命により不本意にも犬猿の仲の騎士と仲良くさせられています!

第38話 ジーク様の容態

 ジーク様が倒れた。

 ヒルデ様からの急ぎの報せに驚いた私とラルフ様は、翌朝を待たずすぐに王都に向かうことにした。急ごしらえで手配した小さい馬車に二人で乗り込み、夜通し進む。

 わざわざ領地まで付いて来てくれたお祖父様には申し訳ないけれど、馬車を飛ばしての移動は高齢のお祖父さまには耐えられない。お祖父様は領地に残ってもらい、私とラルフ様が二人だけで馬車に乗り込むことになった。


「ジーク様は、大丈夫でしょうか。お怪我をされたのか、急病なのか……」
「詳しくは何も書いていない。突然倒れたから急いで王都に戻ってくるようにとしか。この筆跡はヒルデのもので間違いないから、残念ながら倒れたのは事実だと思う」


 あの天使のようなジーク様が一人で苦しんでおられるのだと考えると、自然と目の奥から涙がこみあげてくる。詳しい状況が分からないからこそ不安が募り、膝の上に置いた手はガタガタと震えていた。
 

「マリネット、大丈夫だ。落ち着こう」
「でも……ジーク様が……」


 小さな馬車の中で隣に座るラルフ様は、私の震える手を握った。
 ハイスピードで走る馬車は大きく揺れながら進み、夜通し王都に向かって走り続ける。
 ジーク様のことが心配で眠れなかった私もラルフ様の手の温もりで安心できたのか、明け方にはいつの間にかうとうとと眠ってしまい、夜明けの太陽の光でゆっくりと目を覚ました。

 隣を見ると、ラルフ様も私の隣で目を閉じて眠っているようだった。その時初めて、昨晩からずっと私の手を握ってくれていたラルフ様が、手袋をしていないことに気付く。

 慌てて手を引こうとすると、ラルフ様が目を閉じたまま私の手を逃がさないように握り返した。


「……起きてます?」
「ああ、起きてる。うとうとしてただけだ」
「手を、放してくれますか?」
「手袋……してなかったな……」


 ラルフ様も、今気付いたみたいだ。


(昨日はジーク様のことが心配で手が震えていたけど、ラルフ様と手を繋いでいたら逆に落ち着いたかも……)


 手袋をしていないラルフ様の手が触れても、失神する余裕すらないほどジーク様のことで頭がいっぱいだったのか。自分でもよく分からなかったけれど、私たちはそのまま王都に到着するまで、手を放すことは無かった。





 王城に到着し、急いで馬車を降りてジーク様の元に向かう。

 回廊を走りジーク様の部屋の前に着くと、そこにいた侍女達が落ち着いた様子でゆっくりと扉を開けてくれた。恐る恐る中に入った私は、ジーク様の姿を探す。


「……ジーク様?」
「あ、マリネット! 帰って来てくれたんだね」


(……ん?)


 目の前には、床の上にたくさんのおもちゃを並べて遊ぶジーク様の姿。そしてその横には、なぜだかジーク様と一緒になってはしゃいでいる、妹のイリスがいた。


「えっ……と、申し訳ありません。ジーク様? 状況がよく把握できないのですが……」
「え?」
「ジーク様、ご病気で倒れられたのでは?」
「ぼく元気だよ」


(あれ? 聞いていた話と違う……?)


 呆気にとられる私の横から、ラルフ様が口を開いた。

「……なるほど、ヒルデの仕業だ。俺が、あいつらの茶番劇に付き合ったからか」
「ラルフ様、どういう意味ですか?」
「きっとヒルデが、マリネットに戻って来て欲しくて一芝居打ったんだろう」


 私はラルフ様の言うことが理解できず、頬に手を当てて考える。
 ヒルデ様からのお手紙には確かに「ジーク様が倒れた」と書いてあったはずなのに、実際ジーク様はどこからどう見てもお元気だ。ケガをしている様子もないし、なぜここにいるのか分からないイリスと一緒に楽しそうに遊んでいる。

 ヒルデ様が私をジーク様の教育係に戻すために、ジーク様がご病気だと嘘をついて報せを出したと言うの?
 理解できずラルフ様の方に顔を向けると、私たちの入ってきた扉からちょうどヒルデ様が入ってくるのが見えた。


「ヒルデ様!」

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