おひとりさま希望の伯爵令嬢、国王の命により不本意にも犬猿の仲の騎士と仲良くさせられています!
第6話 国王陛下は天使です
「ジーク国王陛下、今日から頑張ってお勉強いたしましょう」
「マリネット先生! お父様とお母様はぼくのことジークって呼んでたから、先生もそう呼んで!」
「陛下……! それではこれから、私も『ジーク様』とお呼びいたしますね」
私の返事に、ジーク様は照れくさそうに笑う。
今日は、ジーク様の教育係としての第一歩。
初っ端から無邪気な笑顔にハートを撃ち抜かれて、既に瀕死状態なんですけど。大丈夫ですか、私。
しかも、一介の伯爵令嬢ごときにお名前で呼ぶことを許して頂けるなど、光栄過ぎて体中がメロメロと溶けてしまいそうだ。
「先生、この絵本読んでくーだーさい!」
両手で抱えた一冊の本を私に手渡すと、ジーク様はそのまま私の膝によじ登って座る。五歳にしてはしっかりお喋りのできるジーク様だけど、時々こうして子供らしい言葉遣いや仕草が出て来るのが愛らしい。
小さな顔の横から絵本を覗き込むようにして読み聞かせをしていると、柔らかい金色の髪が私の頬にサラサラと触れた。
私の膝の上で足を揺らしながら夢中で絵本に見入るジーク様は本当に可愛くて、絵本なんて投げ出して後ろから抱き締めてしまいたいほどだ。
事故で亡くなった前国王夫妻のことをふと口にしたジーク様を一瞬心配したけれど、私の取り越し苦労だったようだ。何事もなかったように笑顔で絵本を楽しむ姿を見て、私はホッと胸をなでおろした。
「ねえ、先生。この色んな色の壁はなあに?」
絵本に出て来た挿絵を指さして、ジーク様が尋ねる。
「これは、ステンドグラスと言います。色ガラスを使って、絵や模様を作るんですよ。このメデル王国で言うと、メデル大聖堂に大きなステンドグラスがありますね」
「ぼくもキラキラのガラス、見てみたい。大聖堂に連れて行ってください!」
振り返ったジーク様が、私の背中に手を回して抱きつきながらおねだりする。こんな可愛くおねだりされて、断れる人がいるわけがない。
私は絵本をパタンと閉じて、ジーク様をしっかりと抱き直した。
「ジーク様、早速手配致しますね。司教様にステンドグラスを見せていただけるようにお願いしてみましょう」
「ありがと、マリネット先生!」
(きゅんっ……!)
◇ ◇ ◇
「……ということで、ジーク国王陛下と一緒に、メデル大聖堂に視察に参ります。当日の護衛はよろしくお願いしますね」
「今日から教育係に着任したと思ったら早速外出か。初めから張り切り過ぎて、早々に息切れするなよ」
丁寧に馬櫛で愛馬の毛並みを手入れしながら、ラルフ様はこっちを振り向きもせずに言った。
(この人って、口を開けば嫌味しか言えないのかしらね?)
「はいはい、承知致しました」
軽々しくあしらわれたけど、一応彼の同意は得たことにしよう。
それにしても、目さえ合わせなければラルフ様は相当な美男子だと思う。こうして馬の世話をしている姿ですら、絵になってしまうほど。
絶世の美女と言われたリーリエ・ヴェルナー様の孫なのだから容姿に恵まれていて当然なのだけど、この凶悪な性格を知らないご令嬢たちからきゃあきゃあ言われているかと思うと、ちょっと腹立たしい。
(いけないいけない、こんな人と長く一緒にいたくもないし、早々に出て行こう)
私はそのまま厩舎の出口の方に向かって、扉に手をかけた。
――と。
「っ、ぎゃあっ!」
私が開こうとしていた扉を、向こう側にいたらしき人が勢いよく開く。
「うわっ! 大変失礼しました、大丈夫ですか? おケガはないですか?」
「マリネット先生! お父様とお母様はぼくのことジークって呼んでたから、先生もそう呼んで!」
「陛下……! それではこれから、私も『ジーク様』とお呼びいたしますね」
私の返事に、ジーク様は照れくさそうに笑う。
今日は、ジーク様の教育係としての第一歩。
初っ端から無邪気な笑顔にハートを撃ち抜かれて、既に瀕死状態なんですけど。大丈夫ですか、私。
しかも、一介の伯爵令嬢ごときにお名前で呼ぶことを許して頂けるなど、光栄過ぎて体中がメロメロと溶けてしまいそうだ。
「先生、この絵本読んでくーだーさい!」
両手で抱えた一冊の本を私に手渡すと、ジーク様はそのまま私の膝によじ登って座る。五歳にしてはしっかりお喋りのできるジーク様だけど、時々こうして子供らしい言葉遣いや仕草が出て来るのが愛らしい。
小さな顔の横から絵本を覗き込むようにして読み聞かせをしていると、柔らかい金色の髪が私の頬にサラサラと触れた。
私の膝の上で足を揺らしながら夢中で絵本に見入るジーク様は本当に可愛くて、絵本なんて投げ出して後ろから抱き締めてしまいたいほどだ。
事故で亡くなった前国王夫妻のことをふと口にしたジーク様を一瞬心配したけれど、私の取り越し苦労だったようだ。何事もなかったように笑顔で絵本を楽しむ姿を見て、私はホッと胸をなでおろした。
「ねえ、先生。この色んな色の壁はなあに?」
絵本に出て来た挿絵を指さして、ジーク様が尋ねる。
「これは、ステンドグラスと言います。色ガラスを使って、絵や模様を作るんですよ。このメデル王国で言うと、メデル大聖堂に大きなステンドグラスがありますね」
「ぼくもキラキラのガラス、見てみたい。大聖堂に連れて行ってください!」
振り返ったジーク様が、私の背中に手を回して抱きつきながらおねだりする。こんな可愛くおねだりされて、断れる人がいるわけがない。
私は絵本をパタンと閉じて、ジーク様をしっかりと抱き直した。
「ジーク様、早速手配致しますね。司教様にステンドグラスを見せていただけるようにお願いしてみましょう」
「ありがと、マリネット先生!」
(きゅんっ……!)
◇ ◇ ◇
「……ということで、ジーク国王陛下と一緒に、メデル大聖堂に視察に参ります。当日の護衛はよろしくお願いしますね」
「今日から教育係に着任したと思ったら早速外出か。初めから張り切り過ぎて、早々に息切れするなよ」
丁寧に馬櫛で愛馬の毛並みを手入れしながら、ラルフ様はこっちを振り向きもせずに言った。
(この人って、口を開けば嫌味しか言えないのかしらね?)
「はいはい、承知致しました」
軽々しくあしらわれたけど、一応彼の同意は得たことにしよう。
それにしても、目さえ合わせなければラルフ様は相当な美男子だと思う。こうして馬の世話をしている姿ですら、絵になってしまうほど。
絶世の美女と言われたリーリエ・ヴェルナー様の孫なのだから容姿に恵まれていて当然なのだけど、この凶悪な性格を知らないご令嬢たちからきゃあきゃあ言われているかと思うと、ちょっと腹立たしい。
(いけないいけない、こんな人と長く一緒にいたくもないし、早々に出て行こう)
私はそのまま厩舎の出口の方に向かって、扉に手をかけた。
――と。
「っ、ぎゃあっ!」
私が開こうとしていた扉を、向こう側にいたらしき人が勢いよく開く。
「うわっ! 大変失礼しました、大丈夫ですか? おケガはないですか?」