追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!

勿体ない

 それから数日間、ヘレナはとても穏やかな日々を送った。

 王太子の婚約者としての務めも、聖女の務めも無い生活は新鮮だった。日がな一日、のんびりとお茶をしたり、庭を眺めたり、レイを相手にお喋りをしたりする。

 レイはヘレナがダラダラ過ごしても、一切文句を言わない。寧ろ彼女が驚く程、ベタベタに甘やかしてくれた。
 毛織のブランケットや可愛らしいクッション――レイによって持ち込まれた真新しいお部屋グッズが、日毎にどんどん増えていく。ヘレナが心地よく過ごせるよう尽力してくれるため、とてもありがたかった。


(だけど、することが無いっていうのも案外つまらないのねぇ)


 レイの用意してくれたティーセットを前に、ヘレナは小さくため息を吐く。

 これまでヘレナは数日おきに登城をし、カルロスと交流したり、妃教育を受ける生活を送っていた。聖女として王都を回ることも多い。
 ヘレナの聖女としての一番の仕事は、王都の中央に存在する泉を清めることだった。貴族たちは自分専用の貯水庫を持っているが、市民はそういったものを持っていない。泉には毎日、大勢の人々が訪れ、飲み水や身体を清めるための水を求めた。彼等が安全に水を利用できるよう、泉の水を浄化するのだ。


(私のお祈りに、どのぐらいの効果があったかは分からないけど)


 あの水は、今でも安全なままだろうか。そんな不安がヘレナの頭を過る。


< 19 / 97 >

この作品をシェア

pagetop