追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!

【番外編】お邪魔しましたっ!

「どうしてまた、ここにいらっしゃったんですか?」


 それは国境に程近い大きなお屋敷を訪ねた日のこと。僕はかつての主人に、そんな薄情なセリフを投げ掛けられてしまった。


「そんなこと言わないでくださいよ~~! 僕とレイモンド様の仲じゃありませんかっ!」


 言いながら僕は、レイモンド様と扉の間にある隙間にグイグイ己の身体を捩じ込んでいく。普通の家なら無理でも、大きなお屋敷だから扉も大きい。レイモンド様も完全シャットアウトするつもりはないらしく、簡単に屋敷の中に入れた。


(良かった~~~~これでミッション1はクリアだな)


 ホッと胸を撫でおろしつつニンマリと笑う。その瞬間、レイモンド様の冷ややかな声が背後から響いた。


「全く――――王家に私を売った人間が、よくも『僕とレイモンド様の仲』なんて口にできますね」


 ドキッと心臓が鷲掴みにされたような心地に襲われ、僕はレイモンド様を振り返る。無表情――――その中にレイモンド様は若干の怒りを滲ませていらっしゃる。
 いやっ……それでも激おこってわけじゃないと思う。マジで怒ってたらそもそもドアすら開けてくれないだろうし!でも、このままじゃ応接室まで辿り着けそうにない気がする。


「あっ……ニックさん! 来ていらっしゃったんですね。いらっしゃい」


 その瞬間、僕は感激に瞳を潤ませた。


(天は僕に味方してくださった!)


 声の主はレイモンド様の最大にして唯一の弱点、ヘレナ様だ。レイモンド様はヘレナ様の意向には逆らえないから、僕の勝利は決まったも同然。クルリと身体の向きを変え、勝手に応接室の方へ向かう。レイモンド様は若干不服そうな表情をしつつも、僕のことを止めなかった。



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