秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
4.俺の『正体』
桜を迎えに、約束の時間より少し早めに病室へ向かうと、そこに桜はいなかった。


「あ・・れ? 確か病室って言ってたはずだけどな・・」


病室と廊下をウロウロと往復している俺に、看護スタッフが声をかけてくれた。


「どうされました?」

「あ・・この部屋に入院している山脇さんを迎えに」

「ああ、少し前に男性と一緒に出て行きましたよ」


え・・?

まさか、藤澤に退院がバレて先に連れて行かれたのか?


病室で青ざめている俺の耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

慌てて廊下に出ると、歩いてくるのは桜と・・親父!?


声に出そうになって、思わず飲み込んだ。


「じゃあおじさま、またお食事でも」

「そうだな、楽しみにしてるよ。山脇の昔話でもしよう」

「ええ、ぜひ。あ!」


俺に気づいた桜の後ろで、親父が俺にパチッとウインクして遠ざかっていった。

桜の退院、口添えしてくれたんだ・・。


「直生、来てくれたのね」


1週間ぶりに見る桜に、思わず口元が緩んだ。
思ったより顔色もいい。


「さ、帰ろう桜。未来の夫がくる前にな」

「ふふ、そうね」


桜の腕に掛かっていたバッグを持ち、肩を抱き寄せて病棟を後にした。

そのまま病院を出て、ふたりで駐車場に向かう。


変わらず桜の肩を抱いていた俺は、少し離れたところに駐車されていた車から強烈な視線が向けられていることに、気づいていなかった。
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