身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?

第13話 律儀さと冷たさ

 扉を開けると、そこに立っていたのは旦那様だった。サロンに来た時と同じ格好なので、その足で私の部屋まで来たようだ。

「どうなさいましたか? カレン様は……」
「カレンは異動の挨拶に来ただけだったから、もう帰った」
「そうですか」

 続く沈黙。


 ……何で来たの?


「旦那様、何か御用でしたでしょうか」
「いや……あの、部屋に入ってもいいですか」
「え? はい、どうぞ……」

 なぜかまた丁寧語になっている旦那様を部屋の中にお通しして、汗を拭けるようにタオルを渡す。
 彼は小さく御礼を言った後しばらく沈黙し、やっと本題に入った。

「先ほどは……カレンが大変失礼した。彼女は何か変なことを言っていなかったかな? 例えば、俺のこととか」
「変なことと言いますか、お二人の……過去の関係性について? その、あの……」

 もう! 何と言えばいいの?
 あなたたち恋人同士だったらしいじゃないですか、とでも言えばいいのかしら?

「……とても親密なご関係だったとお聞きしました」
「誰が?!」
「旦那様とカレン様ですけど?」
「旦那様と言うのは……リカルド・シャゼルのことだな?」
「はい、そうです。あの、何をお聞きになりたいのですか?」
「いやいや何でもない。念のため確認したかっただけだ」

 旦那様は汗を拭くフリをして、タオルで顔を隠してしまった。お顔は見えないけれど、考えてみればこうして二人で膝を付き合わせてお話するのは初めてだ。

< 34 / 136 >

この作品をシェア

pagetop