生まれ変わっても、君でいて。
きみは誰かの光
■きみは誰かの光

 大きな橋の上で、目が覚めるようなブルーのマフラーをつけたひとりの女子高生と目が合うと、なぜか彼女は一粒の涙を流した。
 今まで泣いていたのではなく、たしかに自分と目が合った瞬間、弾かれるように涙を流したのだ。
 世界の時が止まったような、一瞬の出来事だった。
 呼吸の音さえ聞こえてきそうなほど、感覚が研ぎ澄まされた数秒間。
 その人は、すぐに人混みに紛れて、どこかに消えてしまった。

 ”もう二度と会えない”。
 全く知らない人なのに、なぜかそんなことを強く思った。



 あれからずっと、あの時に出会った女の子を探している気がする。
「小春(こはる)! また入賞したんだってね。すごい!」
 新緑芽吹く五月。
 勧誘されるがままに美術部に入ってから、自分で言うのもなんだがめきめきと才能が発揮され、気づいたら賞の常連になっていた。
 同じ美術部で、腰まで伸びたロングヘアが特徴的な茉莉(まつり)が、目を輝かせながら「すごいすごい!」とはしゃいでいる。
「私のおじいちゃんも一緒に展示会見に来てくれたんだけどさ、小春の絵のことすごく気に入ってたよ」
「へー、嬉しいな。そういや茉莉のおじいちゃん、この前ぎっくり腰になったって言ってたけどもう大丈夫そう?」
「そうなんだよー。今は畑仕事休んでもらって、私が手伝ってるの」
 親元を離れて暮らしている茉莉は、家庭の事情でおじいちゃんと仲良く二人暮らしをしている。
 昨日のお休みも畑を耕していたらしく、今朝は腰が痛いとか首が痛いとか、おばあちゃんみたいな発言を連発していた。
「結局、お姉さんは展示会見に来れなかったんだっけ」
「そうなのー。やっぱり飛行機間に合わなくてダメだった。相変わらず作品作りのために世界中飛び回ってるからさー。あーあ、私もお姉ちゃんに負けずに頑張らなきゃなー」
 茉莉の年の離れたお姉さんは、akariというアーティスト名で活動している、世界的に有名な現代アート作家。六本木でもよく個展が開かれているほど人気で、お姉さんに影響されて美術を始めたらしい。家庭環境は複雑で大変だったようだけど、お姉さんに助けられて何とかやってこれたといつか言っていた。
 他愛もない会話をしながら美術室に入ると、すでにスケッチの準備を始めている部員数人と目が合った。
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