ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
最終章 今度こそ伝える私の気持ち

第25話 ヒロインは新ルートを選びます

 乙女ゲーム『ムーンライト・プリンセス』の世界に転生した私が、前世を思い出してから、もう九年目に入っています。そっと舞台にマイクを置いて悪役令嬢を引退……なんていう訳にもいかず、レオ様と婚約し、ヒロインと出会い、様々なイベントを何とか乗り越えて来ました。

 ――あの夏至の夜。
 綺麗に花を咲かせたムーンライトフラワーを、レオ様と一緒に見ようと画策したメイ様の目の前で、ジェレミーお兄様が花を思い切り踏みつぶすという事件が発生しました。

 荒れ狂ったメイ様をどう抑えようかと思っていたのに、メイ様はその場に現れたジェレミーお兄様に一目惚れ。
 恋だの愛だのに全く興味のないお兄様は華麗にスルーしていたけれど、どうやらメイ様はお兄様への一目惚れがきっかけで、レオ様攻略を諦めてくれたようです。

 メイ様が階段から落ちてケガをしたというのが嘘だったと分かり、立場の悪くなった宰相様とレーマン伯爵は、国王陛下にこっぴどく叱られました。
 レオ様がメイ様を階段から突き落としたという件は公にはなっていませんでしたから、宰相やレーマン伯爵を正式に処分することはできませんでしたけど、きっとこれから肩身の狭い思いをして生きていくことでしょう。

 メイ様はそんなレーマン伯爵との養子関係を解消して、渡風亭(とふうてい)に戻ったらしいです。きっと彼女には彼女なりの正義というものがあって、伯爵と養子縁組関係を続けることが許せなかったのでしょう。
 単に、出世の見込みがなくなった伯爵を見限っただけかもしれませんけどね。


 さて、休暇が明けていつもの学園生活が戻ってきました。私がメイ様をイジメていたなんていう噂もすっかり忘れ去られた学園で、久しぶりにリンゼイと二人でランチです。こんな平和な時間が懐かしく思えるほど、メイ様に振り回される毎日は大変でした。


「エリオット様と、三日もお会いしていないの……。いつも一人になるとエリオット様のことを思い出してしまうのよ、特にお風呂に入っている時とか」


 ああ、お風呂に入っているとびしょびしょになりますからね。どうしてもエリオット様のことを思い出してしまいますよね。私には分からない特殊な世界観ですけど。
 リンゼイはエリオット様に会えない寂しさで食欲がないのか、全然食事が進みません。もらって差し上げましょうか?


「そうよね、お顔を見られないと寂しいわよね。そういえば、リンゼイが学園を卒業したらすぐに結婚する予定なの?」
「そうする予定だけど、あと二年半以上もあるのね。こんなに婚約期間が長いなんて。でも、コレットなんてもう九年も婚約しているのよね。一体どうしてそんなに待てるの?」
「私の場合は、待っているというわけでは……」


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