ヒロインよ、王太子ルートを選べ!

第6話 悪役令嬢は旅に出る

「うわぁ……! 素敵な景色!」


 長時間馬車に揺られてやって来たのは、グランジュール東部にあるエアトンという街です。王都を少し離れると、そこに広がるのはのどかな田園風景。少しずつ田園の中に紅い花畑がチラホラと姿を現し、エアトンに近づくと、そこは一面の紅!


「本当にこの地方にしか咲かない花なのね。こんなに鮮やかな紅色は初めて見たわ」
「……そんなことで喜べるなんて、アンタどんだけ幸せな頭してんの? こうしている間にも、レオは朝焼けニャンニャンしちゃってるかもしれないのにさ」
「……メイ。今確信したんだけど、あなたってかなりディープな昭和から来たでしょ?」


 朝焼けでも夕焼けでもどっちでもいいわ。ニャンニャンしちゃってることには変わりないんだものね! 悲しみって限界を超えると、怒りに変わるんだわ。ああ、イライラする!

 ウェンディ様と師匠が乗る馬車に続いて、エアトンの街に入ります。家の窓からは紅色の布に刺繍を施したタペストリーが下げられ、歩道の端には紅一色の花の植えられた花壇。まるでおとぎ話の世界のよう!
 馬車を降りてからも夢中でエアトンの街並みを眺める私に、ディラン師匠が声をかけてきます。


「コレット、とても楽しんでくれているみたいで僕も嬉しいよ。それに、今日のドレスも帽子もすごく素敵だね」
「師匠、ありがとうございます。夏も近いですから、お気に入りのワンピースにしてみたんです。こんな素敵な街に来られて、体も心も軽くなるようだわ」
「この旅の間だけでもいいから、僕の事を名前で呼んでもらえない……?」


 可愛らしく首を横に傾げながら甘えてくるディラン師匠に、ついついプッと吹き出してしまいます。


「……ディラン様。この旅から帰ったら、ディランさまとはもうお会いできません。最後ですから、お名前で呼ばせていただきます」
「コレットはつれないな」


 口を尖らせるディラン様。
 それ、絶対やめた方がいいです。目も口も『3』になりますから。

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