ヒロインよ、王太子ルートを選べ!

第9話 王太子は多忙を極める ※レオナルドside

 新年祝賀会の場で突然、母上が倒れた。

 国王陛下は心配のあまり公務を全て投げ出して……もとい、王太子である俺に任せて、母の看病のために付きっきりだ。おかげで俺は、まともに寝る暇もないほど働かされている。


「殿下! 国民からの陳情書が溜まっております!」
「殿下! 王妃様がいつも行かれている孤児院への慰問はどうしますか?」
「殿下! キャッスル公爵が御令嬢を連れてご挨拶にお見えです」
「騎士団の新入りがおりますので任命式を」
「王都の河岸工事の決裁は」
「国境近くに侵入者が」


 ……ぅぅぉおおあああっ!!


「孤児院へは明日俺が行く! 行きの馬車で陳情書を見るから、内容別に分類して馬車に載せておけっ! キャッスル公爵の挨拶は断って、次から俺宛の来客対応は、ジョージ・ローリングに判断を移譲する! 任命式は来月にしろ、とりあえず顔合わせだけスケジュール入れておいてくれ。侵入者は騎士団長の指示を受けろ、河岸工事の決裁は今日じゃなくていいだろ!」


 はああぁ、息をつく暇もない。
 昨日までの仕事もまだまだ机の上に山積みなのに、こうして毎日新しい仕事が入ってくるのだ。


「殿下、例の方がお見えですが……奥に通してあります」
「……分かった、すぐ行く」


 来客の報を受け、執務室を出て王宮の奥、王族の居住塔に向かう。ここには限られた人間しか出入りできないようにしていて、信頼できる護衛騎士と最低限の使用人しか置いていない。
 その信頼できる護衛騎士の筆頭であるアランが守る扉を抜け、俺はその中に入った。

 部屋に入る俺に一礼するのは、年配の白髪の男性と若い女性。男性の方は、昔から世話になっていてよく知る人物。もう一人の女性は……初対面だな。


「殿下。こちらはうちの新入りのポーラと申します」
「ポーラと申します。精一杯務めさせていただきます」


 まだ若いポーラは、王族にこんな近くで対峙すること自体が初めてなのだろう。緊張からか、華奢な体を小刻みに震わせている。


「ポーラ、そんなに緊張しなくてもいい。今日からよろしく」
「はい、ありがとうございます」


 二人を案内しながら、今から知る事はくれぐれも内密にする様に伝えた。王族のプライベートな情報は、漏れると色々と厄介なのだ。

 何度も釘を刺し、俺は部屋の扉を開けた。
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