合意的不倫関係のススメ
EP.6「過去の再現」
ーーまた、だ。また《《三年前》》の悪夢にうなされ、最悪な朝を迎えた。頭は鉛のように重く、視界がぼんやりと霞む。ふるふると頭を振り、頬を二度軽く叩いて自身を目覚めさせた。

蒼の浮気現場を初めて目撃したのが六年前、またされるのではという恐怖から私が仕組んで浮気させたのが三年前。

今現在、そろそろまた《《その時期》》が来るのではという強迫観念に怯え、碌に眠れない日々が続いていた。

今日は蒼が有休消化の為平日休みで、二人で出掛けることになっている。彼が売り場に顔を出した辺りから何となく様子が変わり、私を抱かなくなってから約一週間。

だからといって冷たくなる訳でもなく寧ろその逆で、時間さえあれば私の傍にやってくる。そしてまるで犬がそうするように、体を擦り寄せ甘えるのだ。

「茜、好き」

確かめるように何度も何度もそう呟いて、触れるだけのキスを繰り返す。

(どうして蒼が、そんな風になるの)

したいのは私の方だ。捨てられるかもしれないと怯え縋りつきたいのは、私の方だというのに。

思えば蒼も、可哀想な人だ。家族に愛されず母親からは虐げられ、その恨みが未だに彼の細胞を支配している。

本来過ちを正してやらねばならぬ立場の妻は、自らが率先してその過ちに加担した。全ては、自分が捨てられたくないが為に。

本当はずっと、心に薄っすらと幕が張ったまま。笑い合っても、愛を囁き合っても、薄い薄いその膜が邪魔をする。そしてゆっくりと、私を包み込み窒息死させようとしている。

「お、その服似合ってる」
「本当?可愛い?」
「可愛いよ」

彼が私を抱き寄せて、指で頬を撫でる。くすくったさに身を捩らせれば、笑いながら今度は鼻先をつついた。

(幸せ、なのに)

このかけがえのない幸せの下に埋まっているものが、私の足首を掴んで離してくれないせいで私は、いつまでも忘れられないままでいる。

「もう出られる?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ行こう」

私達は仲睦まじい夫婦のように、手を繋いで玄関の扉を閉める。今日は朝から目の眩むような快晴だった。
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