やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

8

 予想通り空腹を抱えていたらしく、三人はすごい勢いで料理を口に運び始めた。ぶつくさ言っていたドナーティですら、パクパクと食べている。

「おや。このサーモンのパテは、どこかで食べた味だな」

 ステファノは、ふと気付いたようだった。

「ああ、ボネッリ殿の所の晩餐会か」
「はい。殿下がお気に召したと仰っていたので、再現してみましたわ」
「それは嬉しい。ここを去る前に、もう一度食べたいと思っていたのだ。実に美味だ」

 ステファノが、満足げに頷く。アントニオも美味しいと褒めてくれた。ドナーティは無言だが、黙々と食べているところを見ると、口に合わないわけではないらしい。

 だがドナーティは、スープには口を付けようとしなかった。ステファノが、眉をひそめる。

「飲まぬのか? 美味いぞ。体も温まる」
「……はい……」

 ステファノに言われては、逆らえなかったのだろう。ドナーティは、気乗りしない様子でスプーンを手に取った。しばらく器の中で泳がせた後、肉だけをすくい取る。ビアンカは、もしやと思った。

「ドナーティ様。もしかして、タマネギは苦手でいらっしゃいますか?」
「何を! 野菜など、我々の口にするものではないからだ。農民ならよいかもしれないが……」
「でも、汁も飲もうとされていないですよね? タマネギの風味が、するからでは?」

 図星だったらしく、ドナーティは固まった。ステファノが、ははあという顔をする。

「ドナーティ。そなた、野菜が嫌いなのではないか? 農民の食物だからというのは、言い訳であろう」
「それは……」

 ドナーティは、真っ赤になっている。体格の良い中年男だというのに、その様は子供のようで、ビアンカは何だか微笑ましくなった。

「お嫌いかもしれませんが、野菜は体作りに良いのですよ? 特にタマネギには、疲労回復効果がございます。いきなりそのままでとは言いませんので、食べやすく工夫した料理から入られては、いかがでしょうか」

「どう工夫しようが、味は変わらんだろう」

 ドナーティが、ぼそりと言う。ビアンカは、ますます可笑しくなった。

「ドナーティ様。そう仰いますが、実はこのパテにも、細かく刻んだタマネギが入っていたのですよ?」
「何!?」

 ドナーティが、すでに完食したパテの皿を見つめる。我慢できなくなったのか、ステファノとアントニオが吹き出す。奇妙な食卓は、一気に和やかな空間に変わりつつあった。 
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