やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

10

 食事が終わると、アントニオは食器を片付けるのを手伝ってくれた。一緒に厨房へ入ると、彼はビアンカにリボンを差し出した。

「ありがとう。おかげで、頑張れたよ」

 白いリボンは、ぼろぼろにすり切れていた。女性から贈られた装飾品は、思いきり損傷して返すのが、この国の伝統だ。それだけ彼女のために尽くした、という証明である。

「よかったです。お疲れ様でした」

 リボンを受け取りながら、ビアンカは思い切って尋ねてみた。

「あの……。殿下との勝負の最中、アントニオさん、殿下に何か囁かれていませんでした? 何と言われたのです?」

「ああ、あれか」

 アントニオは、クスッと笑った。

「殿下がどうも手を抜かれているようだから、こう申し上げたんだよ。『あなたが本気で戦ってくださらないことには、このリボンを贈ってくれた女性に面目が立たない』とね」

「そんなことを……?」

 アントニオの面子を尊重したのか、とビアンカは納得した。

(それだけにしては、ステファノ殿下の気迫はすごかったけれど。リボンを叩き落としたりして……)

 回想していると、アントニオは肩をすくめた。

「それだってのに、勝負を棄権されるんだものなあ。がっくりだぜ」
「う……。私のせいね……」

 申し訳なさすぎて、いたたまれない。するとアントニオは、ふと真剣な表情になった。

「敗北という不名誉を背負ってまで、君を助けに行かれるとは。ステファノ殿下は、優しい方だな」
「そうね……」
「殿下は、俺が思っていたような方ではないかもしれない」

 ビアンカは、驚いてアントニオの顔を見た。

「実はステファノ殿下は、この土地に来られる前から、俺に目を付けられていたらしい。そして素性を調べられ、俺の母親のこともお知りになった。今日殿下は、そのことを詫びてくださった。母を修道院から解放すると共に、パッソーニ家にできる限りの償いをしたいと。ゴドフレード王太子殿下も、すでに承知されているとのことだ」

 何と、とビアンカは目を見張った。

「ステファノ殿下は、コンスタンティーノ三世陛下とは違うのかもしれない。試合中に俺の疲労度を慮ってくださったことや、君を助けに行かれたことなどを併せ考えても……」

 だから、とアントニオは微笑んだ。

「いい加減、意地を張るのは止めようかと思う」
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