やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?
side story ①(ステファノ視点:やり直し前)

 色とりどりの照明が、白いドレスの群れを照らし出している。パルテナンド王国第二王子・ステファノは、独りごちていた。

(デビュタントボール(社交界デビューの舞台となる舞踏会)か)

 舞踏会会場を闊歩しながら、ステファノは、さりげなく令嬢たちに視線を走らせた。ステファノは、今年十九歳になる。いくら武芸一筋できたとはいえ、女性に関心がないわけではなかった。

 とはいえステファノは、思わず眉をひそめたくなった。デビュタントというからには、十五~十六歳であろうに、彼女たちには初々しさの欠片もなかったのだ。一見上品そうに見せながらも、虎視眈々と身分の高い男性を狙っているその様子は、父・コンスタンティーノ三世の歴代の愛人たちを彷彿とさせた。

(おぞましい)

 彼女たちの姿を思い出したとたん、ステファノは気分が悪くなるのを感じた。父は、単に女好きというだけでなく、往々にして趣味が悪かった。その彼の寵を得た女たちは、際限なく富と名誉をねだり、果ては年端もいかぬ兄・ゴドフレードやステファノにまで色目を使った。ステファノがこの年まで独り身でいるのは、その影響が多分にある。ゴドフレードは、それなりの家柄と人柄を兼ね備えた公爵令嬢をさっさと娶ったものの、ステファノはどうにも、結婚する気になれずにいたのだ。

(おまけに、不健康だ)

 恐らくは、無理なダイエットを課している上に、コルセットで締め上げているのだろう。令嬢たちは、流行のドレスを美しく着こなしつつも、顔は青白かった。健康な肉体こそが資本というモットーのステファノからすれば、何の魅力も感じられない。

 うんざりしたステファノは、早々に会場を出た。会場脇には、軽食が用意された別室がある。その前を通りかかった時、ステファノはふと、室内にいる一人の若い娘に目を留めた。

 やはりデビュタントであろう、純白のドレスをまとっている彼女は、無心に料理を口に運んでいた。他の娘たちのように、男性をゲットすることなど、関心がないらしい。ひたすら、美味そうにサンドウィッチを頬張っている。

(美味しそうに食べる娘だな)

 ふと、娘と目が合う。ステファノは、無意識に微笑んでいた。
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