やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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 王都へ連行される道中、ビアンカはリーダーらしき男に質問を繰り返したが、返って来る返答は同じだった。

「私も食べたが、確かにひどすぎる。味は薄いし、野菜は臭い。肉料理はパサパサして、脂っ気が全くない。誰一人として、口を付ける者はいないぞ」

 はて、とビアンカは首をかしげた。いくら王都の豪華な料理に慣れている人々とはいえ、全員が口に合わないなどということがあるだろうか。スザンナの言う通り、ステファノやドナーティは気に入ってくれたではないか。

(それに、味が薄いと……?)

 体を動かす職業の人たちのための、献立だ。塩分は、しっかり考慮している。レシピ通りに作ったら、そんなことになるはずはない。料理人が、何か間違えているのだろうか。とはいえ、それ以上の事実は教えてもらえそうにない。ビアンカは仕方なく、諦めることにした。

(とにかく、王都への到着を待とう。何かしら、釈明のチャンスはあるはず……)

 

 数日の後、ビアンカを乗せた馬車は、王都に着いた。以前の人生では、ここで社交界を満喫したが、もちろん懐かしがっている場合ではない。休む間も与えられず、ビアンカは王宮内へと連れて行かれた。ここは本当に王宮内かと言いたくなるような、簡素な小部屋に通される。調度品もほとんどなく、尋問用の部屋だと、一目でわかった。

 ビアンカは、数名の王立騎士団員らに、厳重に取り囲まれた。そこまでしなくても、逃げられるはずはないのだが。さすがに不安になりながら時間を過ごしていると、やがて扉が開いた。大勢の家臣らに付き従われた、二人の男女が入って来る。その二人には、覚えがあった。以前の人生で、見かけたことがあったからだ。

(ゴドフレード殿下に、カルロッタ様……!)

 男性は、ステファノの兄にして王太子である、ゴドフレードだった。ダークブラウンの髪を持つ、落ち着いた雰囲気の青年である。武闘派のステファノとはかなり印象が違うが、澄んだ黒い瞳が、どこか弟を彷彿とさせた。

 そして女性の方は、国王コンスタンティーノ三世の寵姫である、カルロッタだ。さる侯爵の夫人であったが、夫亡き後国王の目に留まり、以来権力をほしいままにするようになった。豪華な金髪を高々と結い上げて、豊満な肉体を強調するような、露出度の高いドレスを身にまとっている。こうして間近で見ると、貴婦人というよりは娼婦のような印象だ。

(国王陛下って、趣味がお悪いわ……)

 こんな状況にもかかわらず、ビアンカは密かに思ったのだった。
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