やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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「興味だなんて……。誤解ですのに……」

 ビアンカは、呆然と呟いていた。テオはしゃがみ込むと、ビアンカと視線の位置を合わせた。

「いずれにせよ、君が僕という夫を得れば、夫人も少しは安堵するだろう? その上で、買収すればいいんだよ。金にはとことん汚い女だからな」

「買収と仰いますけれど、チェーザリ家にそんなお金はありませんでしょう?」

 家計事情なら、誰よりもよく知っているのだ。するとテオは苦笑した。

「アテはある。君が頭をぶつけて死ぬはめになった、あの置物。あれを売り払おうと思う。忌々しい品でもあるしね」

「……冗談でございましょう?」

 ビアンカは、耳を疑った。あれは、チェーザリ伯爵家に代々伝わる、貴重な品だ。どんなに困窮しても、売る決心がつかなかったというのに……。

「テオ様は、どうしてそこまでしてくださるんです?」

 ビアンカは、ぽつりと尋ねた。

「カブリーニの家にも、再三贈り物を贈られたと聞きました。私でなくてもよいではありませんか。せっかくあなたも、新しい人生を与えられたのです。以前と同じお飾り妻ではなく、他の女性をお選びになればいいではないですか……」

 お飾りというほど家柄も容姿も良くないが、などと思いながら、言葉をつむぐ。するとテオは、厳しい声音で言い放った。

「お飾り妻などではない」

 ビアンカは、驚いて彼の顔を見つめた。

「何か誤解しているようだが、僕は以前の人生でも、君を愛していた」
「……まさか」

 信じられなかった。

「とても、(まこと)の言葉とは思えませんわ。浮気するわ散財するわで、私を苦しめて……」
「本心だと言っている」

 テオは、じっとビアンカの瞳を見た。

「君、さっき、ステファノ殿下に興味を抱かれているなど誤解だと言ったな? さて、どうだろう。僕は、殿下は君を好いておられると思うぞ? なぜなら、前の人生でもそうだったからだ」

「嘘でしょう。それこそ、あり得ない……」

「ステファノ殿下はな。社交界デビューした君を見て、気に入ったと仰ったんだよ」

 ビアンカは、絶句した。だから、とテオが続ける。

「他の男たちは、殿下の不興を買うことを恐れて、君に近付かなかった。それでも僕が君を選んだのは、愛していたからだ」
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