やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

4

 ビアンカは早速、王宮内の厨房へ連れて来られた。すでに大勢の王立騎士団員が待機している。だが、作るのは二人分ということだった。

(できれば大勢の方に召し上がっていただきたかったけれど。でも、あちらはドナーティ様とアントニオさんの二人だから、これが公平よね)

 一瞬落胆したものの、ビアンカは自分を納得させた。ドナーティが、二枚の紙を提示する。

「二人に作ってもらうのは、このメニューだ。相違ないか、確認すること」

 王立騎士団員たちは、見比べて頷いた。ビアンカとジャンも、二枚が同じ内容であることを確認して、一枚ずつ受け取った。

「ジャンさん、よろしくお願いしますね!」

 ビアンカは、思わず華やいだ声を上げていた。騎士団寮の小さな厨房と異なり、王宮内のこの厨房は、目を見張るほどの広さだったのだ。かまどや流しは広く、炉の数も多い。調味料の類も、目移りするくらい種類がそろっていた。ここで調理できるのかと思うと、ワクワクしてきたのだ。

「は、はあ……」

 ビアンカとは対照的に、ジャンはおどおどと頷いた。極刑寸前なのはビアンカの方なのに、とてもそうは見えない。横で見守っていたアントニオは、苦笑した。

「浮かれている場合か?」
「だって、とても魅力的な厨房なんですもの!」

 そこでビアンカは、ふと思い出した。

「アントニオさん、そういえばお母様には会えたのですか?」

 ステファノは、修道院から解放する、と言っていた。だがそれを聞いて、アントニオはふっと顔を曇らせた。

「……いや」

 ビアンカは、怪訝に思った。ステファノは、約束を違えるような人間ではないはずだが……。それ以上聞いていいものか迷っていると、アントニオは眉をひそめた。

「それより、自分のことだろう。釈放されるか否かの、瀬戸際だぞ?」
「あ、はい! 頑張りますね」

 ビアンカは頷くと、指示の下、厨房入りした。ジャンとは、別の厨房になる。不審な真似をしないよう、二人にはそれぞれ見張りが付いていた。

(さ、美味しいものを作って差し上げるぞ!)

 ビアンカは、腕まくりした。もしかしたらこれが、自分が作る最後の料理になるかもしれないのだから……。
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