やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

5

 指定された料理は、三品だった。魚肉パイ、チキンのシチュー、クレープである。ビアンカは、いそいそと調理に取りかかった。

 まずは、パイの下ごしらえだ。ボネッリ領と違って内陸部だけに、魚が新鮮でないことだけが残念だが、問題なくレシピ通りに作れそうだった。パイ生地を準備し、塩漬けサーモンからは、皮と骨を取り去っておく。

 次は、シチューである。そういえば、肉がパサパサしていると言っていたな、とビアンカは思い出した。チキンは塩水に浸けておくことで、ジューシーに仕上がるのだ。レシピにも書いていたはずだが、恐らくはスキップしているのだろう。野菜も、臭いとのことだった。タマネギはあらかじめ水にさらし、にんじんは塩と一緒にゆでておけば、臭みはかなり取れるはずだ。これもまた、レシピには書いていた。ビアンカは、忠実に過程をたどった。

(最後、クレープの材料は、と……)

 ドキリとする。指定された中身は、梨だったのだ。ステファノが、一番好きな果物である。どうして専属料理番の誘いを断ってしまったのだろう、とビアンカの胸は痛んだ。

(生きて釈放されたら、絶対に殿下にも、作って差し上げたいわ……)

 生地を焼いていると、広間の方で騒々しい気配がした。

「料理の比較ですって? 何を、勝手な真似をしているの!」

 けたたましい声は、カルロッタのものだった。とたんに不安になるが、生地から目を離すわけにはいかない。耳を澄ませていると、ドナーティが答えた。

「ステファノ殿下のご命令にございます。ビアンカ嬢の考えたレシピが、真に不味いものなのか、二人に調理させることで明確になりましょう。同じレシピ通りに作って、味が大きく変わることはないでしょうからな。どちらかが極端に不味ければ、レシピに従っていない者がいるということです」

「国王陛下のご命令と言ったでしょう! こんなのは、時間の無駄……」

「カルロッタ殿。料理が作られることで、そなたに都合の悪いことでもあるのか?」

 静かに割り込んだ声は、ゴドフレードのものだった。一瞬、彼女がつまる気配がする。

「良い香りがしてきたな。間もなく、完成であろう。せっかくだから、私どもも食してみようではないか」

 ゴドフレードの声音は、微かに笑いを含んでいた。
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