やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

7

「い、一品くらいまぐれということがあるでしょう!」

 カルロッタが、こめかみを引き攣らせる。ゴドフレードは、けろりと頷いた。

「では、他も食べてみようか」

 ゴドフレードは、ビアンカとジャンの作った魚肉パイを、それぞれ口にした。ビアンカ製の方を食べた後、彼はやや首をかしげた。

「少し辛い気もするが」

 塩漬け魚に、さらに塩を足したのだから、当然である。ビアンカは、すかさず答えた。

「特段運動をなさっていない方には、塩辛く感じられるかもしれません。ですが、騎士の皆様のように、体を動かす方にとっては、これくらいの方がよいのです。『運動をすれば、汗と共に水分だけでなく、塩分も出て行ってしまいますから』」

 かつてのジャンの台詞をそっくり使ってやる。一方、ジャン製のパイを食べたアントニオは、こう告げた。

「私が寮で食べていたものと比較すると、半分以下の薄味に感じられますが」
「この上に、塩を振りかけたいわ」

 冗談めかして、ドナーティも言う。ゴドフレードは、じろりとジャンを見た。

「そなた、確かにレシピ通りに作ったのか?」
「そ、それは……」

 ジャンは、次第に青ざめていったが、突如床に平伏した。

「申し訳ございません! 肉や野菜の下ごしらえの過程を省略し、塩分は仰る通り、半分以下にいたしました!」

「なぜ、そのような……」

 問いかけるゴドフレードをさえぎるように、カルロッタはジャンの側へ駆け寄った。

「まああ、かわいそうなジャン。きっと、自分の地位が脅かされやしまいか、不安だったのねえ? だからわざと、レシピに従わなかったのでしょう」

 言いながら彼女は、ジャンの背に手をかけた。同時にビアンカを、じろりとにらみつける。

「こんな小娘が、もし王立騎士団の料理番に抜擢されでもしたら、居場所がなくなってしまいますものね。厚かましくも、ステファノ殿下に言い寄ろうとした娘ですもの。ドナーティ団長や他の男性をたぶらかして、それくらい狙いかねないわ」
 
(あなただけには言われたくないわ!)

 反論しようとしたその時、ビアンカはハッとした。カルロッタが、さりげなくジャンの口元に手を寄せたのだ。彼女がはめていた、派手な指輪の隙間から、さらさらと粉が落ちる。
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