やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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「ええええ!? 一週間も滞在だなんて、そんなことできませんよ」

 ビアンカは、パタパタと胸の前で手を振った。

「私には、仕事がありますもの」

 王立騎士団の食事作りも必要ないと言われた以上、早急に寮へ帰ろうと思っていたのに。だが二人は、相変わらずニコニコしている。

「その点は、ご心配なく。ボネッリ伯爵領の騎士団寮には、王宮料理番の一人がすでに向かっています。舞踏会までの間、ビアンカ様の代役を務めるとのこと。ステファノ殿下が、手配なさったのですわ」

「ええと……、でも……。家族のことも気になります。心配をかけた上に、のんきに舞踏会へ出るなど、申し訳ないですわ」

 するとそこへ、朗らかな声がした。

「大丈夫ですわ、お姉様!」

 ビアンカは、目を見張った。扉をパッと開けて叫んだのは、何とルチアだったのだ。大きな箱を抱えている。

「あなた……、なぜここに?」
「先ほどアントニオさんと廊下でお会いして、このお部屋を教えてもらいましたわ」
「いえ、そうではなくてね。あなたがなぜ王都へ来ているのかってことなのだけど」

 さっぱり、わけがわからない。するとルチアは、こともなげに言った。

「お父様とお母様でしたら、宮廷舞踏会の件はすでに承知なさっています。実は一ヶ月前に、我が家へ招待状が送られて来たのですわ」

「一ヶ月前ですって!?」

 ビアンカは、思わず声がひっくり返るのを感じた。ステファノがボネッリ伯爵領を去った、すぐ後ではないか。

「お父様は、例によってうろたえておられましたけれど、お母様は大はりきりでしたのよ。ステファノ殿下がお姉様に目をかけておられる、と。ですから、今回の逮捕騒動も、楽観視されておられましたわ。きっと殿下がどうにかしてくださるでしょ、と」

 母ならそうだろうが。そこでビアンカは気付いた。

「あら、でもあなた、言っていたじゃない。お父様とお母様は、私をテオ……チェーザリ伯爵と結婚させたがっている、と」

 大いに矛盾するではないかと思ったのだが、ルチアはけろりと答えた。

「お母様に、お姉様にはそう言えと指示されていたのです。お姉様は、チェーザリ様をお嫌いなのでしょう? 彼との結婚を避けるために、殿下に積極的になってくれたらと、期待されていたようですわ」

(一杯食わされたわ……) 
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