やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

14

 三日も経つ頃には、ビアンカはほぼ完璧にステップを踏めるようになっていた。何といっても、ステファノのリードが巧みなのだ。ビアンカは感心すると同時に、いかに元夫・テオがダンス下手だったかを実感していた。彼のリードは自己中心的かつ強引で、付いて行くのに必死になったものだ。舞踏会といえば壁の花だったビアンカは、他の男性のダンスを知らなかったから、そんなものかと思っていたのだが。

(やはりダンスにも、性格って出るのね)

 改めてそう思ったビアンカであった。

「動きが滑らかになってきたな。めざましい上達ぶりだ」

 ステファノは、満足そうに褒めてくれた。嬉しい反面、もう教える必要はないからレッスンを打ち切る、などと言われたらどうしようかと、ビアンカは内心怯えた。本番まで、少しでも彼と踊る機会は逃したくなかったのだ。だが幸いにも、ステファノはこう続けた。

「この調子で毎日続ければ、本番も案ずることはない」

 ビアンカは、ほっと胸を撫で下ろした。

「ありがとうございます。殿下のリードがお上手だからですわ……。ああ、でも」

 ビアンカは、ふと不安になった。

「他の男性相手でも、このように踊れるかしら?」

 するとステファノは、事もなげに答えた。

「そのようなことは起こり得ない」
「……はい?」

 聞き違えたかと、ビアンカはまばたきした。

「ああ、いや。とにかく、心配せずともよいと言っておる」
「ありがとうございます。頑張りますわ」

 今はこのひとときを楽しもう、とビアンカは流れに身を委ねた。ダンスに慣れたことで、初期の緊張は薄れた。だが余裕が出て来た分、余計なことが気になって仕方ないのだ。……例えば、ステファノの逞しい腕の感触や、大きな掌、密着しているだけにリアルに感じる、胸の厚みだとか。

(鍛えてらっしゃるというのは、本当だったのね……)

「どうだ。この休暇は、有意義に過ごしておるか?」

 ビアンカの胸の内など知る由もなく、ステファノが明るく尋ねる。おかげさまで、とビアンカは答えた。

「妹と王都を見物しておりますの。ですが、根が貧乏性なもので、時間を持て余し気味ですわ」

 そこでビアンカは、ふと思いついた。

「そうですわ。殿下に、伺いたいのですけれど。パッソーニ夫人が入られた修道院というのは、どこですの?」

 せっかく時間があるのだから、アントニオの母親を訪ねようと思ったのだ。だがそれを聞いた瞬間、ステファノの動きは、急に止まった。
< 149 / 253 >

この作品をシェア

pagetop