やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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 ビアンカというその料理番の娘は、面白いものを持参した。筋力アップに成功したという、騎士の裸体画である。

(これは、この娘が描いたのだろうか)

 気にはなったものの、ステファノは食事の説明に移らせることにした。多少誇張したにせよ、短期間でのこの変化はめざましい。是非、秘訣を知りたかったのだ。

 ビアンカの説明には、斬新な話が多かった。食事はトレーニングの三十分後に取る、同じ魚でも、効果があるものとないものがある、野菜を取るべし……などなど。ただちに取り入れようとしたステファノだったが、そこで猛反対する者がいた。

 ドナーティである。真面目で有能だが、頑固で融通が利かないのが欠点の男だ。さてどうしようか、とステファノは思案した。

 ステファノの権限を持ってすれば、強制的に採用することは可能だ。だが、無理やり食べさせたところで、果たして十分な効果が得られるだろうか。それに何よりも、ステファノはビアンカの功績を、皆に認めさせたかった。そのためにステファノは、賭けを持ち出した。

 絵姿の男を、ビアンカは騎士団長と紹介した。つまりは、パッソーニだ。彼ならば、武芸試合での優勝は確実と思われた。仮に優勝せずとも、相当の段階まで勝ち残れるだろう。ステファノは、彼を利用することに決めた。そして、ビアンカに語りかける。

「そなたの作る料理が、食べてみたい」

 幼少時より、少しでも体作りに有効と聞くことは、片っ端から試してきた。そんなステファノとしては、ビアンカの料理は食さずにはいられなかったのだ。

(……そう、それだけのことであろう)

 決して、このビアンカという娘にまた会いたいからではない。ステファノは、そう自分に言い訳していた。チェーザリ伯爵が救出されたと家臣が報告に来たが、そんなことは完全に頭をすり抜けていった。
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