やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

6

 一週間は、あっという間に過ぎていった。ビアンカが髪を切った時には、ドナーティのせいに違いないと憤ったが、彼女との食事は実に楽しいひとときだった。

 本音を隠してばかりの貴族令嬢たちとは違って、ビアンカは自分の意見をはっきり持っていた。かといって、出しゃばるわけでもない。ステファノに媚びることもなく、実直に料理番としての職務をこなすその姿は、好ましかった。それでいて、元は貴族の生まれなので、マナーや教養は兼ね備えている。

 『食事中は、リラックス』というビアンカの言葉を盾に取って、ステファノは彼女についてあれこれ質問した。一体なぜ、貴族令嬢たる彼女が料理番などするようになったのか、不思議だったのだ。だが蓋を開けてみれば、単純に父親の領地経営が下手で、貧乏だったらしい。

 話すうち、家庭の様子も次第にわかってきた。父親はやや頼りなく、母親はしっかり者。真ん中の妹はファッションに、末の妹は食に興味があるらしい。強く受けた印象は、家族仲が良いということだった。

(家族団らんで食事、か)

 ステファノには、想像もつかない世界だった。父コンスタンティーノ三世は、息子たちより愛人たちに夢中だったし、母は早世した。兄ゴドフレードとは、食事を共にすることもあるが、話題はたいてい政務(もしくは父王の愚痴)になった。当然、楽しいはずもない。

「ステファノ殿下も、いずれお妃を娶られ、お子様に恵まれれば、ご家族でお食事がおできになりますわ」

 ステファノの思いを察知したのか、最終日にビアンカはそんなことを言い出した。

(妃、か)

 煩わしくて、避けてきた話題だが。そういう考えもあるのかとステファノは思った。

「では、妃を迎えたら、食事は必ず共にすることにしよう」

 ビアンカのような女性であれば、さぞや楽しいことだろう、とふと思う。
< 156 / 253 >

この作品をシェア

pagetop