やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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 同じくらいコチコチになっている父にエスコートされて、ビアンカは会場入りした。

(うわぁ、眩しい……)

 素朴な感想が漏れる。吸い込まれそうに高い天井からは、シャンデリアがまばゆい光を放っている。壁には数々の絢爛な装飾が施され、大理石の床は、一点のしみも見られないくらい磨き抜かれていた。

「こうしてお前をエスコートできて嬉しいよ。社交界デビューをしない以上、こんな機会はないと思っていたからなあ」

 父が、しみじみと言う。本当は二度目なのだけれどね、とビアンカは思った。前回は、ステファノを遠目から見るだけだった。今回もそうなるだろうけれど、決定的な違いは、彼から贈られた衣装を身に着けていることだ。天と地の差、と言っていいだろう。

 会場内は、ルチアが言っていた通り、女性の比率が高かった。だが彼女らは、男性の数が少ないことなど、まるで気に留めていない様子だ。何しろ今日は、ずっと独身を貫いてきた第二王子が、ついに妃を選ぶ日なのだから。女性陣の瞳は、狩人のごとくギラギラしている。

 ビアンカは、さっと男性メンバーをチェックした。テオはいないようで、深く安堵する。

(よかったわ。まだ、出禁期間なのね……)

「どれ、ご挨拶に伺うか」

 父が促す。ビアンカは、ええと答えた。コンスタンティーノ三世陛下は、体調不良により(カルロッタの愛人裁きで忙しいという説もある)、今宵は欠席とのことだった。王太子夫妻は出席しているが、妃のイレーネは懐妊中のため、ダンスは披露しないとのことである。ビアンカたちは、夫妻に挨拶に行った。

「このような機会をいただいた上、侍女の方まで付けていただき、ご配慮いたみいります」

 そろって礼を述べると、ゴドフレードは穏やかに微笑んだ。

「礼なら、ステファノに言うがよい。招待したのも、ドレスを手配したのも彼だ」
「そうよ、気になさらないでちょうだい。ビアンカ嬢のお世話なら、あの子たちは楽しんでいるわ」

 イレーネも、にこやかに答える。好意的な反応にほっとしていると、会場内がざわつき始めた。いよいよ、ステファノが会場入りしたのだ。
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