やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

 会場内の全女性が、一斉に色めき立つ。ステファノは、彼女らに目を向けることもなく、涼しい顔で闊歩している。そして、兄夫妻の元へ向かった。

「兄上、ご機嫌麗しゅう存じます。義姉上、お体の具合はいかがでございますか」

 大きなお腹を抱えたイレーネを、ステファノは気遣わしげに見やった。

「ありがとう、順調よ。病ではないのだから、そう心配せずともいいわ」
「それは何よりでございますな。ご誕生が、待ち遠しいです」

 するとゴドフレードが、口を挟んだ。

「ステファノ、我が夫婦の子のことより、お前のことであろう。無事妃を娶って、子を成さないことには、我々も気が気ではないぞ?」

「さようでございますね」

 ステファノは、朗らかに微笑んだ。

「ご安心くださいませ。仰せの通りにいたす所存です……。私も、子は好きでございますので、是非賑やかな家庭を作りたいと考えています」

 『家族団らんで食事を取るというのは、楽しいものであろうな』という、いつかのステファノの台詞が、ふと蘇った。母親を早くに亡くし、父親があの体たらくでは、温かい家庭に憧れるのも当然だろう。

(殿下の夢が、どうか叶いますように……)

 その時、参加女性らの囁きが耳に飛びこんで来た。

「ステファノ殿下は、本当に今宵、お妃をお決めになるのかしら?」

「ずっと、逃げてらっしゃったものね。イレーネ様のような完璧な女性を、お望みだという噂よ。あんな方、そうそういらっしゃるものですか。家柄も容姿も、お人柄も全て一流で……」

 ビアンカは、ドキリとした。確かにイレーネは、名門公爵家の令嬢だ。美しく優雅で、何をさせても完璧だという。夫同様穏やかな性格で、家臣らからも評判が良かった。

(あんな方をお望みだというの……?)

 確かにイレーネのような女性は、滅多に見つかるものではない。いちだんと落ち込んだビアンカだったが、さらに衝撃的な言葉が聞こえて来た。

「というより、イレーネ様ご自身に憧れてらっしゃるという説もあるわよ」
「まあっ、長らくお独り身だったのは、そのせいなの?」

 ガツン、と頭を殴られた気がした。同時に、イレーネを気遣っていた、先ほどのステファノの姿が蘇る。義理の姉に対して、彼は親愛の情以上のものを抱いているというのだろうか。

(無理もないわ。あんな素敵な女性、憧れずにはいられないもの……)
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