やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

2

 エルマの部屋は、驚くほど多くの物であふれていた。裁縫道具に、種々の工具……。彼女の寮母たる歴史が、そこに刻まれているようだった。

「これ」

 エルマはビアンカに、ぶ厚いノートを放ってよこした。

「何ですか?」
「家計簿だよ。食費は、この欄に付けている。ここの管理はあんたに任せたから、くれぐれも予算内に収めるんだよ?」
「あ……、ありがとうございます!」

 認めてもらえたようで嬉しかったのだが、エルマはフンと鼻を鳴らした。

「オーバーしたら、承知しないからね。その場合は、あんたが責任を持って自腹を切るんだよ? そして、料理がひどかったり、予算管理ができていなかったりすれば、アントニオやボネッリ様が何と仰ろうが、あんたには出て行ってもらうからね!」

「わかりました! この帳簿、お借りしていいですか?」

 目を輝かせて尋ねれば、エルマは不承不承ながらも頷いた。

「なくすんじゃないよ」
「はい!」

 ビアンカは、ノートを持って自室に帰った。チェーザリ夫人だった頃、毎日帳簿と格闘していたから、読むのはお手の物だ。とはいえ、予想以上の予算の少なさに、ビアンカは頭を抱えたくなった。この中でやりくりするのは、チェーザリ邸時代とどっこいどっこいの苦労だろう。逆に言えば、腕が鳴る。

(皆様の体作りのためには、やっぱりお肉よね。チキンがいいと聞いたわ……)

 チェーザリ邸の料理番・ニコラには兵役経験があったため、体を鍛えるのによいメニューを、色々教えてもらったのだ。やり直し前の記憶を頼りに、買い出しメモを作っていく。

(チキン、卵に豆類。それと、パンね)

 果物やバターも摂って欲しいところだが、この予算ではとても無理だ。調味料も節約しなければいけないから、味付けは当面、塩一辺倒でいかねばならないだろう。

 今日と翌朝の分の食材メモを作ると、ビアンカは支度をして部屋を出た。するとそこへ、アントニオが降りて来た。騎士の制服ではないが、外出の装いをしている。

「買い物か? 付き合う」

 アントニオは、こともなげに告げた。
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