やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

12

「二十年前、私はボネッリ伯爵領の騎士団で働いていたのですよ」

 コリーニは、静かに語り出した。

「部下があの騎士団寮に入寮していたので、私もちょくちょく寮へ顔を出しました。エルマは私より少し年上でしたが、お互い配偶者に先立たれていましてね。境遇が似ていることもあり、次第に惹かれ合ったのです」

 エルマに、結婚経験があったとは知らなかった。ビアンカは、驚きながら聞いていた。

「私は男爵家の出身で、エルマは平民でしたが、そんなことは気になりませんでした。お互い、子供もおりませんでしたし……。再婚してくれと何度もかき口説いて、ようやくOKをもらったのです。その時の私は有頂天で……、彼女に、ドレスを贈りました。真っ赤な色のね」

 ビアンカは、目を見張った。あのドレスは、寮生からのプレゼントではなかったのか……。

「でも」

 コリーニは、顔をゆがめた。

「エルマは一転、結婚の了承を撤回したんです。他に好きな男性ができて、結婚して別の土地に移り住むと言って……。ひどく、ショックでした。ドレスは返すと言われましたが、受け取れませんでした」

 コリーニは辛そうに、ぽつぽつと語った。

「その後私には、王立騎士団からのスカウトが来まして、王都へ移り住みました。エルマとは、それっきりです。ですから、あなたを逮捕しに行った時、まだ寮に彼女がいるのを見て、ひどく驚きました」

 それでコリーニは、馬車から飛び出して来たのか、とビアンカは思った。

「また夫に先立たれたか何かで、あの寮へ戻ったのかと思ったのですが……。そういうわけではなかったようですね。私のことを、断る口実だったのでしょう」

「コリーニ様、きっと何か事情があったのですわ」

 ビアンカは、慌てた。不用意に、二十年などと口走らなければよかった。エルマのことだ、いい加減な振る舞いをするはずはないのに……。

「いいのですよ、もう」

 コリーニは、諦めたようなため息をついた。

「最初はね、あなたにお願いしようと思っていたのです。エルマに、まだ愛していると伝えてくれと。二十年間、ずっと想ってきたと……。ですが、そんな嘘をつかれるほど嫌われていたとは思わなかった。今聞いた話は、忘れてください」

「コリーニ様……」

 ビアンカはコリーニをなだめようとしたが、彼はあっという間に王宮内へ入って行ったのだった。
< 181 / 253 >

この作品をシェア

pagetop