やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

3

「……そんなに、私は様子が変ですか?」
「変、なんてものかね。ジョットたちだって、皆心配してるさ」

 迷ったがビアンカは、宮廷舞踏会での一件を打ち明けた。さすがのエルマも、目を丸くした。

「へええ……。そりゃ、ステファノ殿下が何かと良くしてくださっているのはわかっていたけれど。まさか、お妃とはねえ……。で、即座に断っちまったと」

「だって、お妃だなんて、そんな自信ありませんもの」

 以前の人生の経験からだ、とは言えない。曖昧な説明だが、エルマは頭ごなしに叱ることはしなかった。

「そりゃあ、たいそうな地位だもの。不安になっても当然だけれどね……。でも」

 エルマは、ふとビアンカを見すえた。

「もし、余計なことをあれこれ考えているのなら、それは止した方がいい。身分だって、あんたは立派な貴族の娘だ。ここの仕事のことだって、心配しなくていい。スザンナは、よく頑張ってくれている。一人前とまではいかないが、もしあんたが抜けても、あたしとあの子で何とかなるさ」

「エルマさん……?」

 応援してくれているのだろうか、とビアンカは彼女の顔を見た。エルマが、ふっと笑う。

「あたしはただ、あんたに後悔してほしくないだけさ。……あたしみたいにね」

 ハッとした。つい先ほどのエルマの台詞が、蘇る。

 ――あの人のためにと思ってやったことが、苦しめる結果になったなんて……。

 子供を欲しがっているステファノには、別の女性がふさわしいと、ビアンカは思い込んだ。だがそれは、本当に彼にとって、良いことだったのだろうか……。

(でも、あんな風にお断りして、今さらどうすればいいのでしょう……)

「まあまあ。すぐに結論を出せとは、言わないさ。あたしだって今、どうしていいかわからないんだからね」

 エルマが、ぽんぽんと肩を叩く。

「ただあたしが言いたかったのは、あんたはあたしみたいになるなってことさ……。さ、元気を出すために、何か食べるかね? ビーフパイの残りがあるけど?」

「わあ、いただきます!」

 元気よく返事をしたビアンカだったが、ふと気付いた。この貧乏な騎士団寮で、牛の肉を食べることなど滅多にない。もしや……。

「それって、アントニオさんが優勝した時の景品の牛ですか? まだ残ってたんですか?」
「燻製にして、取っておいたのさ」

 エルマが、けろりと答えながら立ち上がる。一緒に部屋を出ながら、ビアンカは眉をひそめた。

「それにしたところで、二ヶ月近く経つでしょう。大丈夫なんですか?」
「さあね」
「さあって……」

 呆れながらも、ビアンカはエルマに続いて、厨房へ駆け込んだ。宮廷舞踏会以来、初めて心が少し軽くなった気がしていた。
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