やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

5

「もしかしてお姉様、ジョットさんのことを気にされてます?」

 スザンナは、敏感にも感付いたようだった。

「私たち、結構本気なんですよ。彼、我が家へ婚約の申し込みに伺う、と言っています」
「そうなの!?」

 いつの間にそこまで話が進んでいたのか、とビアンカは仰天した。

「ええ。反対……ですか?」
「……そうね。ジョットさんが悪い人ではないというのは、わかっているのだけれど」

 妹を不快にさせないよう、ビアンカは慎重に言葉を選んだ。

「でも、何というか、その……。割と女性関係が派手な人でしょう? あなたが傷付きやしないかと、案じているの」

「あら! そんなこと、気にしやしませんわ」

 スザンナは、快活に笑った。

「過去のことは気にしませんし、いずれ一緒になったら、絶対浮気なんかさせやしませんわ。こてんぱんにしてやります。ですからお姉様、心配はご無用ですわ」

(しきたりに囚われないのって、いいわね)

 ビアンカは、ふと思った。テオの浮気に、自分は散々耐え忍んできた。『上流貴族の男性は、それくらい当然』という固定観念に凝り固まっていたからだ。本当は、文句の一つも言いたかったが……。

(ああっ、思い出したら、腹が立ってきたわ。バルコニー下に突き落とすくらいじゃ、足りなかったわね。今度会ったら、半殺しにしてやろうかしら……)

「たくましいわね。それなら、安心かもね」

 一瞬よぎった過去を振り払って、ビアンカはスザンナに微笑んでみせた。

「それにしても、末っ子のあなたが真っ先に婚約するとは、思わなかったわ。お父様、また卒倒されますわね」

「……ああ、お父様ったら」

 スザンナは、顔をしかめた。

「宮廷舞踏会の場で、みっともないこと……。戻ってからお母様に、ボコボコにされましたのよ」
「まあ、そうなの?」

 父とルチアは、ビアンカより少し遅れて、王都から帰ったのだが。そんなことになっていたとは、全く知らなかった。

「ええ。役に立たないと、お母様はお怒りでしたわ。お母様は、殿下がお姉様に求婚なさるのを見越して、お父様にフォローを依頼していたのです。どうせお姉様のこと、あれこれと周囲を慮って、ご自分の意志を押し殺してしまうだろうからと。お母様は、お姉様をお妃にしたいのではなく、好きな男性と一緒になってほしいのですわ」

(お母様……)

 母の思いに、胸が熱くなる。スザンナは、クスッと笑った。

「それにしても、お父様はちょっとお気の毒でしたけれどね。お母様、凶暴すぎますわよ」
「あら、あなたも十分凶暴よ?」

 そういう自分も凶暴であることは、自覚していないビアンカであった。
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