やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

6

 その時、玄関の方で何やら騒々しい気配がした。

「あれは、馬車が停まった音ではありません?」

 スザンナも、気付いたようだった。

「嫌だわ。今度は何かしら?」

 馬車がやって来た、といえば、嫌でも前回の逮捕を思い出してしまう。ビアンカは、大慌てで外へ出てみた。そして、息を呑んだ。

 そこには、見覚えのある四頭立ての馬車が駐まっていたのだ。うやうやしく家臣らにかしずかれながら、降りて来たのは、ステファノだった。

(殿下!? なぜ……)

「しばらくであったな。元気にしておったか?」

 ステファノが微笑む。ビアンカは、開いた口が塞がらずにいた。それはどう見ても、公衆の面前で求婚を断った女に対する態度ではなかった。まるで、何事もなかったかの様子だ。

「お、おかげさまで……。殿下こそ、ご機嫌麗しゅうございますか?」

 かろうじて、挨拶の言葉をつむぐ。一体彼は、何をしにやって来たのだろう、とビアンカは訝った。にこやかな表情からして、悪い話ではなさそうだが……。

「うむ。そなたに、折り入って相談があってな。少々、時間を取れるか?」
「あっ、はい! もちろんでございます。狭い所ですが、お入りくださいませ」

 ビアンカは、慌ててステファノを中へ通した。家臣らは、外で待つ気配である。唖然としているエルマ、スザンナと一緒に食堂のテーブルを片付けると、ビアンカはステファノに、席を勧めた。

「人払いをしてくれるか」

 恐る恐るお茶を持って来たスザンナをチラと見て、ステファノが言う。ビアンカは、彼女に下がるよう指示した。緊張しながら、ステファノと向かい合う。すると彼は、ふと真剣な表情になった。

「今日、ここへ来たのはだな。義姉上の件なのだ」
「イレーネ様の?」

 予想外の名前に、ビアンカはきょとんとした。

「さよう。彼女が懐妊中であられることは、知っておろう? 実は、つわりがひどくていらっしゃるそうなのだ。王宮の料理番が、あれこれ工夫しているものの、何も喉を通らないのだとか」

 そこでステファノは、ビアンカをじっと見すえた。

「そなたに、協力してほしい。王宮へ来て、義姉上が食べられそうな食事を作ってくれぬか」
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