やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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 ステファノの唇は、しっとりと熱かった。ついばむようなキスが何度か繰り返された後、ゆっくりと舌が入ってくる。柔らかく口内を愛撫した後、彼はそれを、軽くビアンカの舌に絡めた。一見情熱的なようでいて、ビアンカを怖がらせないよう、最大限の配慮をしているのがわかる。

(心臓が止まりそう……)

 さっきから、鼓動は早鐘のようだ。ぴったりと体を密着させているから、当然ステファノにも伝わっているだろう。恥ずかしくて、いたたまれない。抱き込まれたステファノの厚い胸からも、きっと強い鼓動が伝わってきているのだろうが、頭が沸騰しそうなほど興奮しているせいか、よくわからなかった。

 ひとしきりビアンカの唇を貪った後、ようやくステファノは唇を離した。照れくさそうに、だが愛おしげに、ビアンカの髪を撫でる。

「すまなかった。婚約もまだだというのに、このような……。だが、そなたの気持ちを聞けて、嬉しすぎたのだ。許せ」

「とんでもない。そのように、謝られる必要など……」

 謝るべきは、踏ん切りの付かない自分の方だ。ビアンカは、ふるふるとかぶりを振った。

「我慢が利かなんだ。三回は、未遂で止まれたのだがな……」

 ステファノが、微苦笑を浮かべる。あれ、とビアンカは思った。確かに、前回ダンスのレッスン中、キスされそうになったことはあったが。

(他の二回って……?)

 記憶をたぐり寄せようとしたビアンカだったが、ステファノの言葉に、ふと我に返った。

「妃となる決心は、やはりつかぬか?」
「そう……、でございますね」

 ステファノの瞳は、これ以上ないほどの真摯な光をたたえている。彼の愛情に、疑いの余地はない。でも、とビアンカは不安に怯えた。

(もし私が子を宿せなくても、このように愛情深い眼差しで見つめてくださるかしら……?)

 正妃が子を成せないとなれば、側妃を迎えるのが常だ。もし側妃に、子ができたら。元々子供を望んでいるステファノのこと、気持ちはそちらに傾くのではないか。打ち捨てられる自分を想像して、ビアンカはたまらなくなった。夫に顧みられることのなかった、以前の結婚生活が蘇る。あんな人生はこりごりだと思っていたが、また同じような目に遭うのだろうか。

 尋ねてみようか、とビアンカは思った。

(お子を産んで差し上げられなくても、私を選んでくださいますか……?)
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