やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

2

 イレーネは、一瞬目を丸くした後、けらけらっと笑った。

「あら、これは私の地よ? 公の場では、とりつくろっているだけ。だって、そうしないと、色々うるさく言われるじゃない? 王太子妃たるもの、こうでなければ~、とか」

「は、はあ……」

 それにしても、ここまでギャップがあるとは思わなかった。完璧な女性だと、雲の上の人のように思っていたイレーネが、急に身近に思える。

「ゴドフレード様もステファノも、私の本性はご存じよ? ゴドフレード様には、『パルテナンド一の猫かぶり』なんて言われているんですもの。ひどいと思わない?」

 イレーネは、屈託なく笑っている。

「ビアンカさんとは、親しくなれそうな気がして、つい地が出てしまったわ。あなたも遠慮なく、リラックスして接してちょうだいね?」

「はい、ありがとうございます……」

 ほっとしながら礼を述べたビアンカだったが、イレーネの次の言葉に、再び心が陰るのを感じた。

「それにビアンカさんは、義理の妹になる日も近そうだし。是非、仲良くしましょう?」
「ええと、それは……」
「そうだ、ステファノはふられ中だったわね」

 思い出したように、イレーネがぽんと手を叩く。

「ま、急にお妃になれ、なんて言われても戸惑うわよね。でも私は、あなたたちのことを応援したいから。不安があれば、何でも聞いてちょうだい? 彼だって、そのためにあなたを私の食事係にしたんだと思うわ」

 ビアンカは、ハッとした。

(そうだったの……?)

 とはいえ抱えている不安は、すぐには打ち明けられそうになかった。ビアンカは、内心を押し隠して、丁重に礼を述べた。

「ありがとうございます。では早速ですが、今夜のお食事、何かリクエストはございますか?」

 イレーネは、にっこり笑って即答した。

「梨のクレープよ」
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