やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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「俺も、そこまでは聞いていない。でもエルマは、とてもショックを受けたらしい。彼女にとって、この寮に住む騎士たちは、自分の息子のようなものだから……。あの娘さえ、彼を誑かさなければ、と何度も言っていたよ」

 具体的なことは不明だが、エルマの気持ちも少しだけわかった気がした。

「その後も、補佐として入った娘で、使い物になるような子はいなかったからね。エルマが若い娘を警戒するのも、理解はできるけれど。ただ、駆け落ち事件自体、何十年も前の話なんだから、いい加減忘れろよ、と思うね」

 アントニオは、肩をすくめた。

「ま、君なら大丈夫だろ。料理研究のために、窓から侵入しようとするお嬢さんなんて、なかなか見つかるものじゃない」

 面白そうにクスクス笑われて、ビアンカはカッと赤くなるのがわかった。

「期待してるよ、君の料理。あのエルマに立ち向かったんだものな。きっと、美味いものを食わしてくれることだろう」

 えらくハードルが上がった気もするが、そう言ってもらえるのはありがたい。

「いえ、エルマさんを説得してくださったのは、アントニオさんですから。……でも、頑張りますね!」

 うんうん、とアントニオが嬉しげに頷く。

「ま、俺も昨日は反省したからな。女性一人キャッチできないなんて、騎士としては情けない。それも、君みたいに華奢な女性を……。ちゃんと、鍛えないとな」

 華奢というよりは、貧相なだけなのだけれど。そう言い換えてくれたのは嬉しかった。アントニオが、チラリとこちらを見る。

「……やっぱり、情けないと思ってるな?」
「……い……え……」
「間がやたら長い」

 そんなことを言い合っているうちに、二人は市場へ着いた。
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