やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

7

 ジャンとの打ち合わせに入る時には、ビアンカは気持ちを切り替えていた。取りあえずなすべきことは、王立騎士団のメニュー作りだ。団員らの体力がアップしたら、ステファノもきっと喜ぶことだろう。

 王立騎士団の建物内には、専用の厨房があった。王宮のそれほどではないが、少なくとも騎士団寮の厨房よりは、はるかに設備が整っている。食材や調味料も豊富で、ビアンカは心が弾むのを感じた。他の見習い料理番たちも、興味津々といった様子で、打ち合わせを見学に訪れている。

「私が考えましたのは、もう少しお肉の摂取量を増やされては? ということです。私のいる騎士団寮は、与えられた予算が少ないので、それほどたくさん食べられません。ですがこちらは、もっと予算がおありですよね?」

 まずビアンカは、そう提案した。するとジャンは、そうだと認めつつも、ややためらった。

「ですが、脂っこいお肉を大量摂取すると、太りはしませんか? ステファノ殿下は、体に脂肪が付くことを、たいそう気にされるのです。その……、国王陛下のようになりたくない、という思いがお強いようで」

 最後の方を、ジャンは実に言いづらそうに言った。確かに、美食家のコンスタンティーノ三世は、かなりの肥満体だ。あれを身近に見ていれば、警戒するのもわかるが……。

「騎士の皆様は、運動量が多くていらっしゃいますから、食べた分は十分消費できますよ。それに、ひとくちにお肉と言っても、部位によってはそれほど太りません。例えば、チキンなら胸の部分、胸筋の部分です。おまけにそこには、筋肉を増強する成分が含まれているのですよ? 豚なら、ももの部分です」

 ほおお、と料理番たちから感嘆の声が上がった。ジャンは、熱心にメモを取っている。

「なるほど。では、今仰った部位を、積極的にメニューに取り入れましょう。他には、何かアドバイスはございますか?」

「そうですね。こちらは、以前ステファノ殿下にもお伝えしたのですが、食事の回数を増やすとなおよいです。バランス良く、栄養分を分配してですね。運動の前後、どれくらいの時間に食事をするかでも、効果は変わってきますので、こちらは慎重にご相談しないといけませんが」

「ふむふむ。ではそちらは、ドナーティ様とも連携いたしましょう」

 大きく頷いた後、ジャンは尊敬の眼差しでビアンカを見つめた。

「それにしてもビアンカ嬢は、お若いのにすごい知識をお持ちですね。ずいぶん、研究されたのでしょうなあ」

 ビアンカは、ふと後ろめたくなった。自分が伝えたことは、全てチェーザリ邸の料理番・ニコラの受け売りだ。自分の手柄ではないというのに……。
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