やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

12

「それにしても。ステファノとの時間は、ちゃんと取れているの?」

 イレーネが、ふと真剣な表情になる。ビアンカは、一瞬つまった。

(ほぼ、取れてないわね……)

 最近のビアンカといえば、王宮の厨房にいるか、王立騎士団の厨房にいるか、ドナーティ邸の厨房にいるかの三択である。まあ、いずれにしても厨房なのだが。ステファノは、買い物や演劇鑑賞に誘ってくれるが、ビアンカはそんな理由から断っていた。

 それでいて、王立騎士団の建物を訪れた際は、こっそり調練場をのぞくのだから、自分が嫌になる。ステファノは、しばしば調練場を借りてトレーニングしているのだ。騎士団員たち相手に剣を振るうたびに舞う、輝く赤毛や、弓を引くたびに震える逞しい腕の筋肉に、ビアンカは見惚れた。求婚に応じさえすれば、そんな風にのぞき見せずとも、毎日身近で見られるというのに。自分が、とてつもなく愚かに感じられる。

「お妃になるのが、そんなに不安かしら? 心配しなくても大丈夫よ? 猫をかぶる秘訣なら、いくらでも教えてあげるし」

 ビアンカを元気づけようとしてか、イレーネは冗談めかして言った。

「社交界デビューしていないとはいっても、デビューに備えて教育は受けていた、と聞いているわ。ご家族だって、賛成なさっているようだし……。もしかして原因は、子供かしら? 産めるかどうか、といったところ?」

「なぜそれを!?」

 ビアンカは、思わず聞き返していた。イレーネが、合点したという顔をする。

「図星のようね……。宮廷舞踏会でステファノが求婚した時、あなたは最初、承諾しようとしていたわ。でも一転、拒絶した。その時あなたは、私のお腹を見た気がしたの。それで、そう推理したわ」

 何もかもお見通しだったのか、とビアンカは愕然とした。イレーネが、そっとビアンカの手を取る。

「心配しなくてもいいじゃない? あなたは若いのだし、きっと健康な子を産めてよ?」
「ですが、もし産めなかったらと思うと……。ステファノ殿下ご自身、子供がお好きと仰っていましたし……」

 以前の人生の経験から、とは言えない。もごもごと答えていると、イレーネは取ったビアンカの手を放した。じっと、ビアンカの瞳を見つめる。

「その不安は、女性なら誰しも同じよ? 私だって、結婚して二年間、身ごもらなかった。早く王子をというプレッシャーの中で、どれほど辛かったか」

 ハッとした。
< 205 / 253 >

この作品をシェア

pagetop