やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

2

「ずっと、お返事を引き延ばしていて、申し訳ありませんでした」

 ステファノの顔が見られない。ビアンカは、目を伏せて言葉をつむいだ。

「私は、不安だったのです。殿下はお子を欲しがっておられるのに、私には宿せる自信がありませんでした。もし、このような私でもよろしければ、妃にしてくださいませ。やはり身ごもらなければ、どうぞご側妃をお迎えいただいて……」

 言葉の途中で、ビアンカはステファノに抱き寄せられた。痛いほどの力で、抱きしめられる。ステファノは、しばらく無言だった。厚い胸板から、強い鼓動が伝わってくる。彼は、やがてぽつりと言った。

「ありがとう。求婚に応じてくれて、嬉しい」

「殿下……」

「それから、すまなかった。子供のことを気にしていたとは、気付かなかった。私が、不用意な発言をしたばかりに……」

 ステファノは、ようやく腕の力を緩めると、ビアンカの顔を見つめた。

「宮廷舞踏会で言ったことなら、気にするな。『子が好き』『賑やかな家庭を作りたい』、確かにそう発言した。だが私は、妃とするなら、そなた以外にいないと考えている。だから、『子』はそなたとの子、『家庭』はそなたと築くものを念頭に置いておったのだ。それ以外は、考えられない。そなたさえ妻に迎えられれば、子供はいてもいなくても構わぬ。側妃など、迎えるつもりはない」

(そこまで、言ってくださるの……?)

 ビアンカは、呆然と聞いていた。正妃に子ができない場合、側妃を迎えるのは、何十年と続くパルテナンド王国の慣例だ。ステファノは、それを破るつもりだろうか。

「安心してくれたか?」

 ステファノが、顔をのぞき込む。ビアンカは、慌ててはいと答えた。

(そうは仰っても、慣例を破るのは、なかなか難しいでしょうけれど……)

 でも今の自分は、そんなことは吹っ切れている。無意識に笑みを浮かべれば、ステファノも微笑んだ。

「ビアンカ。愛している」

 くいと顎を捕らえられて、ビアンカは我に返った。

(何をやらかした、私!?)

 着替えてヘアメイクを整えて、と段取りを考えていたのに。結局、使用人服姿で求婚の返事をしてしまった。おまけにここは、厨房の出口という、ムードもへったくれもない場所だ。さらにビアンカは、最悪なことを思い出した。まだエプロンすら外していないではないか。今夜調理したのは、ローストビーフだというのに。

「殿下! お召し物に、油が付きますわ!」
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