やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

5

「で、お安いお店というのはどこですか?」

 ビアンカは、目を輝かせてアントニオに尋ねた。すると彼は、手招きした。

「こっちへおいで」

 アントニオが案内したのは、数々の露店が立ち並ぶ中でも、端の方だった。昨日は、指示された物を早く買って帰ることで必死だったから気付かなかったが、確かに安そうなエリアだ。……なぜわかるかというと、客でごった返していたからだ。

(これは、いい買い物ができるかも!)

 ビアンカは、無意識にぐっと拳を握りしめていた。するとその手を、アントニオがつかんだ。

「ぼーっとしてると、はぐれるぞ」
「……あ、はい!」

 一瞬ドキリとしたが、確かにこの混雑では、迷子になってもおかしくない。ビアンカは、アントニオに手を引かれるがまま歩んだ。ややあって、彼が振り返る。

「人気があるのは、ここだ。安くて、新鮮」

 アントニオが示したのは、鮮魚店だった。確かに安いが、ビアンカはふと気付いた。

「もしかして、普段のお食事って、肉より魚の方が多いですか?」
「そりゃ、安く手に入るからな。メインは大抵魚だ」

 海岸沿いなら、当然だろう。だがビアンカは、眉をひそめた。

「それは、良くないですね。魚は健康にいいですが、偏りすぎはよくありません。それに、ここで売られているのは、白身の魚ばかりです。筋肉を付けるためには、赤身の魚でないと」

 水槽を指しながら説明すれば、アントニオは驚いたように目を見開いた。

「そうなのか?」

「ええ。マグロやサンマがあればいいんですが、この地域では獲れないようですね。だとすれば、少々値は張っても、お肉の方がいいです」

「よく勉強しているんだな」

 アントニオが、感心したように頷く。ニコラからの受け売りなのだが、とビアンカは密かに思った。

「なので、せっかく案内していただいたけれど、別のお店にしますね」

 肉屋のエリアを探そうとしたビアンカだったが、アントニオはそれを引き留めた。

「その前に、ちょっと待ってくれ。寄りたい所がある」

 アントニオがビアンカを連れて行ったのは、揚げ菓子の店だった。
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