やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

5

「す、すみません! 私が、もう少し早く決断していれば……」

 悔やまれてならない。だがステファノは、ビアンカを責めることはしなかった。

「いや、そなたのせいではない。だが本来なら、婚約後は王子妃教育に入る段取りであったが、そういうわけで一年は婚約できない。いかがする? 騎士団寮の仕事が気になるのであれば、そちらへ戻ってギリギリまで働いてもよいが」

 ステファノの気遣いが身にしみる。だがビアンカは、かぶりを振った。

「いえ。私は、引き続きイレーネ様のお食事作りを担当させていただきたいと思っていますので」
「だが、半年後にはお産まれになるだろう。妊婦向けの食事は必要なくなるわけだが、その後は?」

 ステファノの瞳は、一緒にいたいと訴えている。それなのに強要せず、ビアンカの意志を尊重してくれる配慮が嬉しかった。ビアンカは、思い切ってこう告げた。

「私は……、殿下のおそばで過ごしたいです。ボネッリ様や寮母とも相談して、ですが」

 ステファノにおもねたのではない。ビアンカ自身の希望だった。これまで理由を付けて避けてきた分、いやそれ以上の期間を、ステファノと共に過ごしたかったのだ……。

「では、義姉上ご出産後も、そなたが王宮に留まれるよう、何らかの手段を考えよう」

 ステファノは、にっこり笑った。

「そなたのお父上や、ボネッリ殿には、私から挨拶いたそう。もちろん、父上の葬儀やもろもろの対応が終わってだが」

「わかりましたわ」

 神妙に頷けば、ステファノは席を立った。

「今日はもう遅いので、これで帰る。そなたも、早く休めよ」
「ええ、殿下こそ」

 ステファノを見送った後、ビアンカはまたもや考え込んだ。婚約こそ先になったが、何ら問題はない。一応相談はするが、エルマたちも賛成してくれると思われた。

(……でも)

 何だか、不吉な予感がする。歴史の変化のせいだろうか、とビアンカは思った。そんな話は、ステファノにもできないけれど。
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