やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

9

 一週間後、ビアンカが自室で休憩していると、侍女のマリアがやって来た。

「ビアンカ様に、お客様ですわよ」

 誰だろうと不思議に思いながら出迎えて、ビアンカは驚いた。ボネッリ伯爵にエルマ、そしてジェンマだったのだ。

「皆様、おそろいで! 一体、どうされたのです?」
「本来、こちらに用があるのは私だったのですがな。ご用があるというので、お二人を一緒にお連れしたのですよ」

 ボネッリ伯爵がにこやかに説明する。何だか、えらく上機嫌だ。ビアンカは、三人にソファを勧めると、マリアにお茶を持って来てくれるよう頼んだ。

「ビアンカ嬢、素晴らしいニュースですよ。我が領では、この度、堤防工事に着手することになりました」

 腰かけるやいなや、ボネッリ伯爵は、身を乗り出して告げた。

「ご存じの通り、海に面した我が領は、年中津波の被害に遭っているでしょう? 海岸に堤防を作りたいと、以前から国に申請していたのですがね。前国王は、ずっと放置されてきたのです」

 まあ、とビアンカは眉をひそめた。ですが、と伯爵が続ける。

「この度ゴドフレード陛下は、即座に認可してくださいましてな。お忙しいでしょうに、真っ先にご対応くださったのです」

 伯爵は、嬉しそうに語っている。

「そして、毎冬の大雪被害についても、除雪にかかる費用を補助してくださるそうです。堤防工事の申請を放置してきた、お詫びだとか。自然災害に悩まされてきた我が領にも、希望の光が見えてきました」

「よかったですわ」

ビアンカが大きく頷くと、ボネッリ伯爵はかぶりを振った。

「それだけではないのですよ。この度、我が領から王都への街道を整備することが決定しました。うちで獲れた新鮮な生魚を運搬することが、主な目的です。こちらも、国が援助してくださるのですよ。王都向けに魚を売れるようになったら、我が領も潤います。領民たちの生活も、豊かになりますよ」

 いつの間に、とビアンカは目を見張った。伯爵が微笑む。

「全て、ステファノ殿下のおかげですよ」

「殿下の……?」

「ええ。堤防工事の認可に向けて動いてくださったのも、除雪費用の補助について国王陛下に進言されたのも、殿下です。何より、街道整備は殿下のアイデアです。実際に現地に来られて、熱心に調査なさったのですよ」
  
 ビアンカは、思い出した。津波や大雪が貧困の原因になっていると語った際、ステファノは、解決策を講じると言っていた。貧しい地域の活性化に力を入れたい、とも語っていたが。まさか、これほど速やかに対応してくれるなんて。

(そういえば、今は大きな案件を抱えているって仰っていたわね。このことだったのね……)

 ボネッリ伯爵が、しみじみと呟く。

「お礼を申し上げたら、ステファノ殿下はこう仰るのですよ。『自分がここのサーモンを気に入ったから』『以前、長期滞在した詫びだ』と。謙虚な方ですよねえ」

(まあ確かに、長期滞在は迷惑でしたわよね……)
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