やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

10

「では私は、これで。陛下、殿下にご挨拶すると共に、打ち合わせしなければなりません」

 ボネッリ伯爵が、せかせかと立ち上がる。するとエルマも続いた。

「ボネッリ様。その前にお手数ですが、王立騎士団の建物へ連れて行っていただけますか。会いたい人がいるのです」
「エルマさん、まさか……?」

 ビアンカは、目を輝かせた。エルマがニッと笑う。

「弟子が勇気を出したってのに、負けてられるもんかね」
「上手くいくといいですわね」

 ビアンカは、心からそう願った。コリーニと、和解できますように……。

「じゃあエルマ、行きましょうか。ええと、ジェンマさんは?」

 ボネッリ伯爵が、ジェンマを見る。

「私は、こちらに残りますわ。ビアンカお嬢様にお渡ししたいものがございますし、積もる話もあります」

 ジェンマは、たくさんの荷物を抱えていた。

「帰りは、迎えに来ましょうか? エルマは、こちらにある私の屋敷に泊めるのですが、よろしければあなたも」

 ボネッリ伯爵は親切にもそう言ったが、ジェンマは断った。

「お気遣いありがとうございます。でも私は、こちらに知人がおりますので、そちらに泊めてもらいますわ」
「そうですか。それでは、また」

 伯爵が、エルマを連れて出て行く。ビアンカは、不思議に思って尋ねた。

「ジェンマ、あなた、こちらに知り合いなんていたの?」
「ああ、あれは方便ですわ。ボネッリ様のお屋敷なんて、気を遣ってしまいますもの。自分で宿を取ろうと思います」

 ジェンマはあっさりそう答えると、荷物を指した。

「こちら、お嬢様の身の回りのお品ですわ。王宮ご滞在が長引くということですから、色々ご入り用かと思いまして。騎士団寮に残されていたお荷物も、まとめてお持ちしましたわ」

「あら、それは助かるわ。ありがとう」

 ビアンカは、ほっとして礼を述べた。ジェンマがニコニコする。

「お嬢様、この度は本当におめでとうございます。王子殿下のお妃になられるだなんて、誇らしいですわ」

 ジェンマは、心からビアンカを祝福している様子である。テオがカブリーニ家へ求婚に訪れた際は、彼に執着している様子だったジェンマだが、彼のことはもう頭から飛んでいるようで、ビアンカは安堵した。

(そういえば、釈放されたはずだけれど、テオ様には出くわさないわね)

 またつけ回されることを警戒していたが、テオにその気配はない。さすがに諦めてくれたか、とビアンカはほっとした。考えてみれば、当然だが。正式な婚約はまだとはいえ、ビアンカがステファノと婚約予定であることは、知れ渡っている。その上、このペンダントだ。普通の男なら、言い寄るわけがない。

(あっ、でもテオ様って、普通じゃなかったわね。油断は大敵だわ)

 気を引き締めようと思ったビアンカであった。
< 216 / 253 >

この作品をシェア

pagetop