やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

6

(美味しそうっ)

 砂糖がたっぷりまぶされた菓子の山に、ビアンカは思わず唾を飲んだ。今朝は朝食抜き、昨夜はわずかなパンとスープだけだったから、余計である。

「いや、でも、ダメです! 予算オーバーしちゃいますよ!」

 売り子を前に、みっともないとは思ったが、ビアンカはアントニオを押し止めた。だが彼は、かぶりを振った。

「別に、食費から出してもらおうなんて思っちゃいない。俺が自分で買うんだよ」

 アントニオは、売り子の方を向き直ると、八つね、と告げた。中年女性の売り子は、彼と顔なじみらしく、毎度どうも、と愛想良く答える。そして、意味ありげにアントニオとビアンカを見比べた。

「ついに、恋人ができたのかい?」
「い、いえ! 私は……」

 ビアンカは慌てて訂正しようとしたが、それより早くアントニオが説明した。

「違うよ。彼女は、ビアンカ。うちの寮で、料理番をすることになったんだ。また買い物に来ることもあると思うから、よろしくな」

 よろしくお願いします、とビアンカも頭を下げる。売り子は、心底気の毒そうな眼差しでビアンカを見た。

「あのエルマの下で、あの低予算でやるのかい? 大変だねえ」

 どうやら騎士団寮の金欠ぶりは、有名らしかった。菓子を包みながら、売り子が説明する。

「でも、このアントニオは偉いんだよ。自分だって薄給なのに、こうして定期的に、仲間に菓子を買って帰るんだからね」

「でかい声で、薄給と言わないでくれ」

 きまり悪そうに文句を言いながら、アントニオはビアンカをチラリと見た。弁解がましく告げる。

「俺以外は、皆十代だろ? 脂っこい物が欲しい年頃だからな。それに、糖分だって必要だ」

「仲間思いなんですね。優しいなあ」

 ビアンカは、心底感心した。アントニオが、少し赤くなる。

「これくらいしか、してやれることがないからな。でも皆、ここの菓子は好きなんだ。特にジョットなんか、ああ見えて甘党なんだぜ」

 そうこうしているうちに、売り子が菓子を包み終える。アントニオは、袋を受け取ると、礼を述べて金を払った。歩き出しながら、早くも一つを口にしている。

「ほら、君の分」

 アントニオは、袋から菓子を出すと、ビアンカに突き出した。ビアンカは、おやと思った。彼の手には、二個載っていたのだ。

(そういえば、さっき八つって……?)

 騎士五人と、エルマ、ビアンカの分を合わせると、七個のはずだが。もしや……。

「激励を込めて、おまけだ」
「あ……、ありがとうございます。いいんですか……?」

 ためらいながら受け取ると、アントニオはクスッと笑った。

「歓迎会をする金もないからな」
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