やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

17

 気を取り直して、ビアンカは尋ねた。

「ええと、殿下はなぜここに……?」

「以前ボネッリ邸で、チェーザリ伯爵はそなたに絡んでおっただろう。恩赦ということで釈放はしたが、念のため身辺を見張っていたのだ」

 ずぶ濡れで騎士団員らに連行されて行くテオを見ながら、ビアンカは合点した。

「もうそなたに付きまとうことはないぞ? 安心せよ」

 ステファノは穏やかに微笑んでいるが、ビアンカは不安に襲われた。テオの言動を見聞きした、とステファノは言っていた。すなわち、最後のテオの台詞も聞かれてしまったのでは……。

「ステファノ殿下」

 ビアンカは、思い切って彼に呼びかけた。

「誤解のなきよう、申し上げます。私は、清い体でございます!」

 まだ残っていた騎士団員らが、ごほっとむせるのが視界に入ったが、ビアンカは構わず続けた。

「私とチェーザリ伯爵の間には、何ら疚しいことはございません。彼が、私の体の特徴を知っていたのは、以前の人生で夫婦だったからでございます。私と彼は、一度死んだ後、時間が巻き戻りました。二人とも、今は二度目の人生なのです」

 騎士団員らは、気が触れた人間を見る目で、ビアンカを見ている。ビアンカは、必死で訴えた。

「信じられないかもしれませんが、本当です。私は……」
「信じよう」

 ステファノは、ビアンカの言葉を静かに遮った。

「そなたが、嘘をつくわけはなかろう」
「殿下……」

 ビアンカは、信じられない思いでステファノを見上げた。

「まずは、王宮内へ戻ろう。そこでゆっくりと、話を聞く。複雑な事情が、あるのであろう?」

 そう語りかけるステファノの眼差しは、この上なく優しくて、ビアンカは胸が熱くなった。同時に、心に誓う。

(殿下に、全てを打ち明けるのよ。人生をやり直した、この経緯を……)
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