やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?
第十八章 殿下、正直に告白します。私、人生をやり直しました!

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 ステファノはビアンカを、王宮内の部屋へと連れ帰った。すぐ話を聞いてくれるのかと思いきや、彼はエレナとマリアを呼んだ。

「すぐに湯浴みをさせてやってくれ」

 驚いて顔を見ると、ステファノはこともなげに言った。

「そうしたいのではなかろうかと思った」

 確かに、テオに胸をわしづかみにされた感触は、まだ残っている。服の上からとはいえ、耐え難い気持ち悪さから、早く逃れたいと思っていた。それを察してくれたステファノの配慮に、感謝する。

 ステファノが出て行くと、エレナたちはやけに張り切って準備を始めた。

「さあ、ビアンカ様。思いきり磨かせていただきますわよ!」
「ようやく、といった感じですわね!」

 何やら誤解している様子の彼女たちに、ビアンカは焦った。

「ちょっ……、今夜は、そういうわけではありませんから!」

 否定はしたものの、二人はいっこうに信じていない様子である。

「何を仰ってるんですの。ご婚約まで一年も、だなんて、殿下も我慢できるわけがありませんわよねえ」
「前国王陛下も、厄介なタイミングで亡くなられたことですわ」

 口々に言いながら、二人はビアンカの肌を、丁寧に手入れしていく。言っても無駄な雰囲気に、ビアンカは諦めた。

(それにしても、前陛下の崩御って、すごく軽く扱われてるわね……)

 ようやくビアンカがエレナたちから解放されたのは、二時間後だった。部屋に入って来たステファノは、一瞬ぎょっとした様子でビアンカを見つめた。それもそのはず、完全に勘違いした彼女らによって、ビアンカは一番いい寝間着を着せられ、化粧まで施されたのである。ビアンカは、蚊の鳴くような声で謝罪した。

「……すみません、お待たせいたしまして」
「……いや。では、話を聞こうか」

 ステファノは、ビアンカにソファを勧めると、自分も腰かけた。……ただし、やけに不自然な距離を取って。ビアンカはそんな彼に、順を追って説明した。

 かつては普通に社交界デビューし、テオと結婚したこと。だが一年半後に死に、気が付いたら社交界デビュー前に時間が巻き戻っていたこと。新しい人生では仕事に生きようと、騎士団寮の料理番として就職したこと。ステファノは、黙って耳を傾けていた。

「私だけではなく、チェーザリ伯爵も時を同じくして亡くなり、同様に時間が巻き戻ったのです。殿下がボネッリ邸へ来られた際、バルコニーで私は彼からそう告げられました」

 あの時テオから聞いた話を、細かく説明する。本当に信じてくれるだろうか、と不安に思ったが、ステファノは意外にもあっさり頷いた。

「『以前の人生で』『歴史が変化した』という、そなたらの会話はそういうことだったのだな。辻褄が合う」
「信じて……くださるのですね!?」

 ビアンカは、ほっと胸を撫で下ろした。ステファノが微笑む。

「ああ。ちなみにそなた、以前は社交界デビューしたとのことだったが……、その際、私と会っていないか? そなたはその時、何か食べていなかったか」

(どうして、それを……?)
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