やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

7

 アントニオが買ってくれた揚げ菓子は、中に蜂蜜がたっぷり入っていた。彼こそ栄養を摂るべきではないかとは思ったが、歓迎会代わりと言われた以上、ビアンカは素直にご馳走になることにした。

 がぜん、元気が出て来た気がする。ビアンカは、アントニオが教えてくれた安売り肉店で、まるで鷹が獲物を狙うがごとく吟味した。チキンと、ひらめいて豚の脂も購入する。

「えらく真剣に選んでいたな」

 満足そうに商品を抱えていると、アントニオは可笑しそうに笑った。

「ええ。見ていてください! これで筋肉増、間違いなしですからね」

  疲労回復効果があるチキンは、体を動かす人間には最適と聞いた。これをすり身にして、卵をつなぎに団子にしようとビアンカは考えている。卵にも筋肉作りの効果があるから、ちょうどいい。豚の脂は、安いのをいいことに、豆のスープに加えるつもりだった。『脂っこい物が欲しい年頃』というアントニオの言葉で、急遽思いついたのである。

「まあ、俺たちがガリガリなのは、認めるけれど。君はえらく、筋肉にこだわるんだな」
「そりゃあ、いざという時に戦ってもらわないといけませんもの」

 パルテナンド王国は、決して平和とは言い難い国だ。周辺の国に攻め込まれることも、しばしばある。たまたま、この地域が王都から遠く離れているため、巻き込まれずに済んでいるだけのことだ。海沿いではあるが、幸いにも、海を渡って攻めて来ようという国はない。

「それに、聞きましたわ。今度、ステファノ殿下が視察に来られるのでしょう? 王子殿下には、ここの騎士団はすごいと思っていただきたいです!」

 だがそれを聞いて、アントニオの表情はふっと曇った。声を落として、呟く。

「王室のために、強くなろうとは思わないな……。少なくとも、現国王陛下のためには」
「……」

 ビアンカは、ぐっと詰まった。確かに、今のパルテナンド国王・コンスタンティーノ三世は、名君とは言い難い。若い頃から女色に溺れてきたが、王妃亡き後、その傾向はいっそう強くなった。長年寵愛しているカルロッタという愛人には、贅沢し放題をさせており、息子たちがいさめても耳を傾けないらしい。他国に攻め込まれがちなのは、そんな国王が甘くみられているせいもあるだろう。

 アントニオは、ビアンカの顔をじっと見つめた。

「この騎士団寮の予算が、これほど少ないのは、この地域が貧乏だからだ。年中津波で被害を受ける上に、気候は厳しく、冬ともなれば、毎年大雪。正直、自分たちのことで手一杯だ。王室のことなんざ、知るかと言いたいね」

 アントニオは、驚くほど厳しい声音で、そう言い放ったのだった。
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