やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

6

 出席者と一通りの挨拶を終えると、ビアンカはそっと会場を抜け出した。今日実家へ戻った目的は、他にもある。気は進まないが、避けては通れないことだった。

 自室に呼び出すと、ジェンマは硬い表情でやって来た。二人きりになると、ビアンカは単刀直入に切り出した。

「私が聞きたいことは、わかっているわね? 王都へ来たあの日、あなたはチェーザリ伯爵から頼まれて、偽の手紙を私の部屋に置いたわね?」

「偽とは知りませんでした……」

「嘘仰い!」

 びしりと怒鳴りつければ、ジェンマはさすがに黙った。

「王家の紋章くらい、あなたも知っているでしょう。それが入った封筒を、チェーザリ伯爵があなたに託した時点で、おかしいとわかったはずよ。なぜ、私を騙す片棒など担いだの?」

「……」

 ジェンマは、黙り込んだままだ。ビアンカは、じっと彼女を見すえた。

「あの日あなたは、知人の家に泊まると言っていたわね。後で方便だと弁解していたけれど、本当は、チェーザリ邸に泊まるつもりだったのじゃない?」

「そうですよ」

 ジェンマは、ぼそりと言った。

「チェーザリ様を、好きだったんです……。彼が初めてこの屋敷に来られたあの時に、一目惚れしました。なぜか傷だらけでいらしたけど、それもまた痛々しくて……。そして彼は、こう仰いました」

 ジェンマは、キッとビアンカをにらんだ。

「私を愛しているって言ってくださったんです。でも身分的な事情から、自分は貴族の娘と結婚しないといけない。だからビアンカを娶るが、君は侍女として一緒にチェーザリ家に来ればいい、愛人にしてやると……」

「それで、私を騙す手伝いをしたのね」

「ビアンカ様が王子殿下と結婚されたのでは、私はチェーザリ邸へ入り込めないではないですか。だからどうしても、チェーザリ様とくっついていただく必要がありました。彼は、こう仰いましたわ。ビアンカは形だけの妻にする、君は実質、奥方として振る舞えばいいと……」

 ジェンマは、勝ち誇ったように語っている。ビアンカは、確信した。以前の人生で、ジェンマに誘われて浮気したとテオは言った。それは、真実だったに違いない……。
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