やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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「……どういう意味でございますの?」

 ビアンカは、きょとんとした。ステファノが、かぶりを振る。

「何でもない。ただ、これは知っておけ。男は、愛する女のことになると、ひどく狭量になる時がある、ということだ。今日だって……。私は、そなたが帰って来るのを、今か今かと待っておったのだ。ところが、帰り着いたと聞いて訪ねてみれば、部屋にそなたの姿はなく……。聞けば、厨房へ向かったと言うではないか。何だか、悔しくなった」

「……すみませんでした。ステファノ様に先に、帰ったとご報告すべきでしたわね」

 すねている様子のステファノに謝罪するうち、ビアンカは思い出していた。ビアンカが厨房に入り浸ることに、テオがいい顔をしなかったことを。使用人たちだけでなく、自分にも目を向けて欲しかった、とも言っていた。今の自分は、同じ過ちを繰り返してはいないか。

(確かに私には、鈍感な所があるかもしれないわ。夫となる男性の気持ちを、もう少し配慮しなくては……)

 ビアンカは、心に決めた。せっかく、人生をやり直したのだ。ただ新しい生活を楽しむだけでなく、前回の教訓を活かさなくては。そうすることで、自分も周囲の人々も、さらに幸せになれることだろう……。

「どうした? そこまで深刻になることはないのだぞ?」

 ビアンカの決意に満ちた表情を見て、ステファノは怪訝そうにしている。いえ、とビアンカは微笑んだ。

(取りあえずは、正直に胸の内を告白しましょう……)

「私も、ずっとステファノ様に会いたいと思っておりました。離れている間、恋しくて仕方ありませんでした」

 勇気を出して告げれば、ステファノの顔はほころんだ。そっとビアンカの体を引き寄せ、胸に抱き込む。

「そうか。では今夜、部屋に行ってもいいか」
「ダメなわけがありませんわ」

 明日の朝は起きられないかもしれないなあ、とビアンカは思った。閨を共にするようになってからというもの、ビアンカはステファノの体力を、身をもって実感しているのである。けれど、今夜はそれでも構わない気がしたのだった。
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