やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

2

「いえ。これは、私も同罪ですから……」

 ビアンカは、消え入りそうな声で答えた。以前の人生からして、よもやと思ったのだ。まさか、これほど早く身ごもるとは。心当たりは、ありすぎるほどあるが、婚約披露パーティーから帰った夜ではないかとビアンカは思っている。

(いや、嬉しいのですけどね……)

「なるべくお腹が目立たないデザインにしたので、安心してください」

 励ますように、ルチアが言う。イレーネは、そんなルチアに、労るような眼差しを向けた。

「あなたも、大事な時期でしょう。体調はどうかしら?」
「お気遣いありがとうございます。おかげさまで、順調でございます」

 ルチアが、パッと頬を染める。彼女もまた、最近妊娠が発覚したのだ。それを機に、クラリッサも修道院を出て、息子アントニオの屋敷に同居する決意を固めたらしい。それまでは、誘っても遠慮している様子で断っていたのだが、孫ができたことで気持ちが揺らいだようだった。

「ならよかったわ」
「王太子殿下こそ、お元気でいらっしゃいますか?」

 息子のことに言及されると、イレーネはとたんに相好を崩した。

「ありがとう。最近は、一人でおすわりができるようになったのよ?」

 あの後、イレーネは以前の人生同様、男児を出産した。レオナルドと名付けられたその王子は、現在七ヶ月になる。ゴドフレードもイレーネも、目の中に入れても痛くない可愛がりようだった。

 ひとしきり息子の話を繰り広げた後、イレーネはちょっと可笑しそうな顔をした。

「それにしても、陛下の肝いりの改革は、あまり意味がなかったわね?」

 イレーネが言っているのは、ゴドフレードが実施した『側妃廃止』のお触れのことである。男児を産まねばというプレッシャーに悩む妻を見てきた彼は、側妃を迎えて彼女をないがしろにするような真似はしたくないと考えた。さらに、ビアンカが妊娠に不安を抱いているとイレーネから聞いて、即位後、改革に踏み切ったのである。

 反対派はかなり多かったが、ゴドフレードは、『正妃に子ができなければ、王室に(ゆかり)の者を王太子として迎えればよい』と言って押し切った。だがようやく実現した矢先に、イレーネは男児を出産し、ビアンカも妊娠が発覚したのである。

「今後のことも考えると、結果的にはよかったと思いますわ」

 ビアンカは、力強く答えた。このお触れでは、側妃だけでなく、寵姫制度も廃止するとされているのだ。コンスタンティーノ三世時代との違いをアピールするのに、有効であろう。

「かもね」

 イレーネは、ふっと笑った。

「さあ、そろそろドレスを着てみましょうか」
「ですわね」

 侍女のエレナとマリアが駆け付け、包みを開けていく。女たちは、楽しい時間を過ごしたのであった。
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