やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

3

 試着が終わり、ルチアが帰って行くと、イレーネはそわそわと席を立った。

「レオナルドの、お食事の時間だわ」
「では、行きましょうか」

 ビアンカはイレーネと共に、部屋を出た。向かう先は、王立騎士団の建物付近にある、離宮だ。その中には、ステファノがビアンカのために作ってくれた、専用厨房があるのである。

 イレーネが出産した後、ビアンカは食事係の役目を失った。喪明けの挙式までにはまだ期間があるということで、早めにお妃教育を受けることになったものの、ビアンカは喪失感を拭えずにいた。

(やっぱり、料理は私の生きがいだわ……)

 そんなビアンカの思いを察したステファノは、即座に厨房を新設したのである。妃となってからも、ここで自由に料理をしてよいという。するとイレーネが、そこでビアンカから料理を教わりたいと言い出した。かつて興味を示していたのは、どうやら本気だったようなのだ。まずは、レオナルドのための離乳食を作りたいと言う。こうして今や、二人は並んで厨房に立つ毎日なのである。

(この立地が、また嬉しいのよね)

 ビアンカは幸せを噛みしめながら、厨房の窓から外を眺めた。ここからは、王立騎士団の調練場が一望できるのだ。ステファノは、時間ができればここでトレーニングに取り組んでいる。今も、アントニオと剣を交えていた。

(ステファノ様が、やや優勢ってところかしらね)

 アントニオは、王立騎士団内でめきめきと頭角を現している。国一番の剣士・ステファノと互角に渡り合えるのは、今では彼くらいしかいないという話だ。

 二人は、心地良く汗を流している……ように見えたが、一転、何やら口喧嘩を始めた。この場所からは、何を言い争っているのやらさっぱりだが、二人の顔に浮かぶ笑みから察するに、大した内容ではないと思われた。

(お二人とも、もうすぐ父親になろうかというのに、子供みたいですわね)

 ビアンカはひとつ首を振ると、調理に集中し始めた。喧嘩の原因は、騎士団寮で初めてビアンカと会った時の思い出を、アントニオが語ったからだ、などとは想像もしなかった。
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