やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

5

 ついに結婚式当日を迎えた。ビアンカの部屋には、朝から両親とルチア、スザンナ、ジョットが集まっていた。

「ルチアお姉様のデザインしたドレス、本当に素敵!」

 スザンナが、ため息を漏らす。この純白のウェディングドレスの特徴は、スカート部分に何層にも重ねた、レースのチュールだ。絶妙な切り替えのウエストラインとも相まって、大きなお腹が目立たなくなっている。

「お体に負担をかけないよう、軽い素材を使ったのよ」

 会心の出来とばかりに、ルチアは得意そうに言った。

「とても着心地が良いわ、ありがとう……。それにこの刺繍、工夫してくれたのね?」

 散りばめられた金糸の刺繍は、よく見るとフルーツをかたどっていた。料理好きのビアンカとしては、思わず顔がほころんでしまう。

「そうですわ。気に入ってくださって何よりです……。そして、これでまた注文が増えそうですわね!」
「商魂たくましいわねえ」

 ビアンカは呆れた。そこへ、ジョットが何やら紙の束を持って来た。

「これ、エルマからの結婚祝い。秘蔵のレシピだって」
「まあ、ありがとう。エルマさん、お加減はいかが?」

 腰痛が悪化しているエルマは、とても王都まで来られないということで、式は欠席するのである。代わりにコリーニが来るとのことだった。

「あまり良くないかな。だから、もう寮母は引退するって。今、後任選び中」
「それは残念だわ」

 ビアンカは、眉をひそめた。すると、スザンナが可笑しそうに口を挟んだ。

「呆れたことに、ジェンマが応募してきたのよ。すぐ隣の領地なんだから、彼女が追放されたことなんて、知れ渡ってるというのにね。ま、どっちみち、即不採用にされたけど」

 その後ジェンマは、ボネッリ領も出たということだ。行方は、誰も知らないらしい。

「何だか、あの騎士団寮も様変わりしたよなあ」

 少し寂しそうに、ジョットが言う。

「アントニオ、ビアンカちゃんに続いて、チロも出ちまったし。今度はエルマまで。俺だってもうすぐだ」

 チロはあの後、本当に宮廷画家として採用されたのだ。彼が描いたレオナルドの肖像画は、ゴドフレード夫妻にたいそう気に入られた。たまにステファノの絵画指導もしているとのことだが、詳細については、チロは固く口をつぐむのだった。

「また、新しい出会いがありますわよ」
 
 ビアンカがそう言うと、スザンナとジョットは、何やら顔を見合わせて微笑んだ。

「ビアンカお姉様みたいな人は、もう二度と現れないでしょうけれどね」
「そうそう! あの貧乏寮を改革して、最後は王弟妃だものなあ」
「本当に、お姉様は偉大ですわよ」

 ルチアも、脇から口を挟んだ。言いながら、自分の腹を指す。

「ですからね、この子が女の子だったら、ビアンカと名付けようと、アントニオさんと話していたのです」

 まあ、とビアンカは目を見張った。イレーネもそう言っていたし、ビアンカだらけではないか。

(あれ、でもアントニオさんが娘をビアンカと名付けたと、ステファノ様が知られたら……?)

 また揉めそうだなあ、とビアンカは思った。

(まあ、いいか……)
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